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二百二十三話 タイム、アップ

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「もう遅い」

ロンバーのズボンは既に半分程が無くなっており、そこからアラッドは容赦なく解いていく。

「なっ!!!」

ズボンの生地がなくなっていく。
その結果どうなるのか分からないロンバーではない。

必死で解けていく糸を何とかしようとするが、何とかしようとすれば……必然的に止まる必要がある。

そうなった場合、寧ろアラッドからすれば非常に解かしやすい状態。

(……ついでに上着も解いていくか)

ズボンよりも解く量が多いが、それだけに集中すればそこまで時間は掛からない。

(こ、これは……なんともえげつないね)

少し離れた場所からアラッドの攻撃を観ているベルはそう思わずにはいられなかった。

ズボンだけではなく、上着も解かれていく。
それが解り……もしこのまま完了してしまうと、ロンバーは文字通りパンツ一丁になってしまう。

アラッドがその気になればパンツも解くことが出来るが、さすがに令嬢たちがいるこの場でそこまでしてしまうのは良くないと思い、自重。

だが、ズボンと上着を解いていくことには容赦がない。

(うんうん、相手が止めっていると非常にやりやすいな)

先程までと比べて糸が解かれていくスピードは圧倒的に速い。

ロンバーも何とかしようと糸を掴むが、それなりに上質な糸が使われていることもあり、高速で動く糸を握れば、皮が切れてしまう。

「ッ!? く、クソ!!!!」

大声で現状に不満を漏らすだけで、根本的な解決は出来ない。

テーブルに置いてあったナイフでなんとか切ろうとするが、糸を自在に操るアラッドがそれを許すはずもなく、糸はひらひらとナイフから逃げる。

「こ、この卑怯者!!! 拳で戦うんじゃないのか!!!!」

「別に武器がない状態でも、拳があれば戦えるだろとお前に言っただけで、俺は拳で戦うとは一言も言ってないぞ」

伝えた言葉通り、アラッドは元々拳で語り合うつもりは一切なく、糸だけを使って勝つつもり。

(つか、先に絡んで煽ってきた奴に卑怯者と言われてもな……使ってる武器はお前がバカにした糸だし)

服の糸を乗っ取られ、徐々に徐々に脱がされていく。
その光景に周囲で観戦していた令息令嬢たちは……絶句していた。

確かに……確かに服は糸から成り立つ。
とはいえ、その糸を乗っ取られて脱がされる……なんて普通は考えられない。

しかしその普通をぶち破るのが、アラッドが授かったスキル。

もっとも、誰が相手でも服の糸を乗っ取ることが出来る訳ではない。
対応の仕方はあるが……それがパッと思い付くほど、ロンバーは頭が良くなかった。
そもそもその力がなく、もうどうしようもないというのが現状。

「ほらほら、そろそろ無くなるぞ」

「くそ、くそ、くそ、くそ、クソが!!!!!!!」

タイム、アップ。

ズボンと上着、全ての糸が解かれ……ロンバーは見事なパンツ一丁になってしまた。

「きゃっ!!」

「ぶっ、はっはっは!!」

周囲で終わりを見守っていた子供たちの反応は二つ。

パンツ一丁という姿に悲鳴を上げるか、面白過ぎて笑ってしまうかのどちらかだった。

「はぁ……見苦しいというか、残念過ぎる姿だな」

「そうですねぇ……まぁ、強者に喧嘩を売った愚か者の末路としては、当然の結果かと」

「マリアの言う通りですわね。少々同情しますが……アラッドの逆鱗に触れたのでしょうから、仕方ない結果でしょう」

「……ふふ、変な恰好」

レイ嬢たちはパンツ一丁でどうしたらいいのか分からず、あたふたしているロンバーの姿に……あれは当然の結果だと感じていた。

それはベルたちも同じ感想だった。

「分かってはいたけど……うん、やっぱり同じ男として少しだけ可哀そうと思ってしまうね」

「こうなるって結果が分かってたんだな、ベルは……止めようとは思わなかったのか?」

「リオは全く止める気がなかったでしょ。そういうことだよ」

「はは! ルーフも同じ意見か」

「う、うん。そうだね」

結果、アラッドは攻撃らしい攻撃はしていないが……それでも明確な勝利を得て、ロンバーに恥ずかし過ぎる敗北を与えた。
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