上 下
220 / 984

二百二十話 嘘をついたところで……

しおりを挟む
「なんかさ、あんまりこういった場に出てこないけど……随分強い強いって噂されてるけど、本当のところどうなの」

「どうなの、って言われてもな」

このロンバーの言葉に……アラッドは真っ向から喧嘩を売っているのか、自分と今すぐにでも模擬戦をしてどっちが上なのかを決めたいのか……それとも純粋にその噂に対して疑問を感じているのか分からなかった。

(そりゃそれなりに……ぶっちゃければ、八歳という年齢を考えれば超強いと思いますよ。ただ、あんまり本音というか事実をぶっちゃけるのはな)

ロンバーの言葉にどう答えれば良いのか迷っていると、その反応を見て弱点を突いたのかと思ったのか、更に上から目線な感情が表情に現れる。

「まぁ、ドラングの奴は大したことないって言ってるけど……本当に強いなら、授かったスキルぐらい、言えるよな」

親族から大したことはない、自分を超える逸材かもしれない。
両極端な意見が出ている本人がいったいどんなスキル五歳の誕生日に授かったのか……これに関しては、ロンバー以外の者たちも気になっていた。

(アラッド、どうするんだ?)

リオはアラッドが授かったスキルについて知っている。

ただ……その名を訊けば、絶対にロンバーが大人目線から理解することが出来ず、厄介事に発展するのが目に見えている。

(別に答えても構わないと思うが……初見であれば、理解するのは難しいか)

実際にアラッドの糸がどれだけ凶悪なのかレイ嬢たちは知っているが、名前だけ聞けば侮られるのも確か。

(あらあら、アラッドさんにそれを聞いてしまいますか)

(……なんとなく、これからどうなるかイメージが湧きましたわ)

(多分、殺されはしない……はず)

レイ嬢以外の令嬢たちもこの先どうなってしまうのか……ある程度展開が読め、自業自得ではあるものの……ロンバーの身を少しだけ心配した。

ルーフも親からアラッドが授かったスキル、糸がどの様な武器になるのか……予想ではあるが、その内容を聞いているので、二人の衝突を止めた方が良いと思いながらも……元々気が弱いこともあり、あたふたするだけ。

「……俺が授かったスキルは、糸だよ」

アラッドは正直に話した。

(嘘を付かず、正直に答えるとは……流石アラッドだ)

(こういった状況でも偽らずに応える、か。よっぽど糸に自信があるんだね)

レイ嬢とベルはアラッドが仮に授かったスキルが剣技だと嘘を付いても、それはそれで悪い選択だとは思わない。
現に、アラッドの剣技スキルは授かったスキルだ……そう言われても信じてしまえる程に、練度が高い。

(ここで嘘ついても、身内であるドラングが否定すれば、直ぐに嘘だってバレるしな)

そこまで詳しく糸の性能については知らないが、それでもドラングはアラッドが授かったスキルが糸ということだけは知っている。

つまり、ここで嘘を付いてもいずれバレてしまう。
それはパーシブル家にとって、自分にとっても良くない結果となる。

(というか、もしかしたらこの中に人の嘘や違和感に気付くスキル? とかを持ってる奴がいるかもしれない。そういう奴がいるかもしれない可能性を考えると、ここで嘘を付くのは得策じゃないんだよな)

ただ……正直に話したら話したで、問題が起こるのは目に見えていた。

「ぶっ!!! はっはっはっはっは!!!! マジかよ、糸って……はっはっはっはっは!!!!」

アラッドの答えを聞き、一瞬辺りが静寂に包み込まれ……それをロンバーの爆笑が破った。

それが切っ掛けとなり、授かったスキルが糸だと知った他の令息や令嬢たちはロンバーほどではなにしろ、小さく笑い始めた。

そんな周囲の反応に対してレイ嬢たちの誰かが一喝しようとしたが、アラッドがそれを手で制した。

(俺を想ってくれてるのは嬉しいけど、それはそれで色々勘ぐられるそうだからな)

正直自分の自慢のスキルを馬鹿にされるのは気に食わない。

ほんの少しぐらいは糸の怖さを体験させても良いか……そう思ったが、今のところ目の前の令息は笑っているだけ。
ここで手を出すのは……よろしくない、かもしれない。

そう思ったアラッドは矛を上げないでいこうと思ったが、最後の……ギリギリのラインをロンバーがあっさりと越えてきた。

「やっぱり、親の違いってのは謙虚に現れるもんだな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...