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二百十六話 自分でも解っていたけど

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「やぁ、アラッド! 久しぶりだね、元気にしてたかい」

「ベルか、久しぶりだな。まぁ……それなりに元気にしてたよ」

声を掛けてきた人物は以前、お茶会で友人となった令息……サンドレア伯爵家のベルだった。

相変わらず世の女性を笑顔で撃沈させそうな優顔でアラッドの隣にやって来たが、直ぐにアラッドが嘘を付いていると気付いた。

「アラッド、もしかして最近……頑張り過ぎてるのかな」

「頑張り過ぎてるって、何をだ?」

「君の場合だ日々の訓練やモンスターとの実戦。後は……錬金術とかかな? 細かい理由は分からないけど、以前会った時と比べて疲れが残っている様に見えるよ」

ベルの言葉は見事に的中しており、アラッドの体からここ最近の疲れが抜けていないのは事実。

アラッド本人としてはいつも通りの表情をしていたつもりだが、アラッドよりも社交界に多く出席しているベルは、その嘘を見抜いていた。

「……隠しても無駄そうだな。確かに、疲れは残っているかもしれない……ただ、ようやく最近その元凶が……いや、元凶という言葉を使うのは失礼だな」

ここ最近疲れが溜まった原因は勿論、レイ嬢たちとの交流会。

普通に考えれば貴族社会の中でもそれなりに有名なレイ嬢たちと交流を深められるのは、有難く光栄な出来事。
しかしそういった事に関して興味が薄いアラッドにとっては、胃薬が必要になるイベントなのだ。

「とにかく、ここ最近慣れないことが多かったというか……そんな感じで、少し疲れが溜まっているかもしれない。勿論、疲れるだけじゃなかったけどな」

「……そうか。楽しさがあってなによりだよ」

詳しい話は知らないが、アラッドがレイ嬢たちと交流会を行っていたという話は、ベルの耳にも入っていた。

付き合いは深くないが、それでもアラッドはそういった事にあまり興味がないというのは解っていたので、交流会が上手くいったのか……その真偽は少々気になっていた。

(マリア嬢やエリザ嬢たちからすれば、楽しい時間だったと思うけど……アラッドからすれば、早く家に帰って特訓したり、錬金術の鍛錬を積みたいって思いの方が強かったかもしれないね)

まさにその通りだったが当然、アラッドはそんな感情を表に出すことなく、なんとかやり過ごした。

「今日のパーティーには、あのお茶会で一緒に楽しんだメンバー全員が来てるよ」

「そうみたいだな。殆どパーティーに参加しない俺にとっては、とても有難いよ」

ベルたちがいるというのは勿論有難い。
それに加えて……会場に入ると、既に用意されている高級料理の匂いが漂っくる。

「……ふふ、食欲がそそられる匂いだ」

「確かに良い匂いだね。朝ご飯はしっかり食べたつもりだったけど、ちょっとお腹が空いてきたね」

「俺もだ……前回パーティーに参加した時は、並んでいる高級料理ばかりを食べていたな」

「そ、そういえばそんな事言ってたね……うん、よくよく考えると凄いというか、常識外れというか……とにかくそれを実行しようと思って出来るのは本当に凄いよ」

常識的に考えてあり得ない行動。

それはアラッドも分かってはいたいが……やはり、社交界という場に興味が持てなかった結果、弟のドラングに役割を全て丸投げしてしまった。

「あれは仕方なかったんだよ。というか、いきなり寄ってきたのは令嬢ばっかりだったんだぞ。なんで寄ってきたのかって目的は解り切ってるし……正直ところ、相手にするのが面倒だった」

「物凄く正直だね。その気持ちは解らなくもないけど」

ベルも父親の地位、権力はそれなりのものなので、そういった部分を狙って寄って来る令嬢は少なくない。

「おう、ベルとアラッドじゃねぇか」

「リオにルーフか。この間ぶりだな」

元気な短髪ヤンキーのリオとオドオドした雰囲気の意外と髪はサラサラショートのルーフと合流。

これであのお茶会で集まった令息四人が再集合した。


※ワード辺境伯の令息であるガルシアの名前をリオに変更しました。
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