上 下
213 / 985

二百十三話 気付けぬ流れと刹那の

しおりを挟む
「アラッド、下がってなさい」

「……大丈夫です」

待ちから街へ移動していれば、当然モンスターだけではなく……盗賊に襲われることもある。

「俺も、戦えるので」

アラッドたちの馬車などを見て良い物を得られそうだと思った馬鹿な盗賊たちは、数の力を利用してアラッドたちを囲んだ。

「けっけっけ! 随分と勝気な坊ちゃんなことだぜ」

「あの顔だと……物好きなゲス野郎には売れるかもな」

盗賊たちは盗賊たちで早速品定め中。
そんなバカたちの様子に、護衛の騎士たちの怒りは増すに増す。

「アラッド……まだ早い」

「……最近の成果を試すには、もってこいの相手です」

フールは一度アラッドの表情を確認し……これ以上何かを言っても無駄だと思った。

「はぁ~~~~……スタートだ」

もう何も言わない。
それが自分に盗賊と戦うことを許可した合図。

そしてフールの言葉と共に、騎士たちが盗賊の殲滅を始める。
勿論、フールも騎士たちと一緒にアホ共を沈める。

(一人だけ、だな)

倒す前から分かっていた。
訓練、実戦の成果を試せるのは一人だけだと。

なので予め殺す相手を一人だけに絞り、身体強化と脚力強化を同時に使って猛ダッシュ。

「「「「「「「ッ!!!???」」」」」」」

確かに盗賊の数は多かったが、簡単に言ってしまえば……相手が悪かった。
奇襲を仕掛けたところで勝てる相手でもない。

自信満々で前に出て囲ってしまえば何とかなる。
そんなバカな考えを持ってい勝てるほど……パーシブル家の騎士や当主は甘くない。

そして……そんな中でも、例外中の例外である存在がほぼ全力で地を駆けた結果……盗賊はその子供の速さに対応出来なかった。

ギリギリ子供がとんでもない速さで自分のところに向かってきた。
それは分かった。
加えて、手に持っていた武器を思いっきり振った。

だが、当然そんな鈍い攻撃がアラッドに掠りもするはずなく……宙を飛んで躱し、頭部を通り過ぎる前に指先から生み出した切断性が高い糸を首周りに設置。

そして着地と同時にその首を刎ねた。

「……良い感じ、かな」

アラッドに首を切断された男は何事もなかったかのように自身の後ろに跳んだ子供を殺そうと動いたが、切断されてる首を無理に動かそうとすれば……当然、その首は落ちる。

「え?」

意識があるのに、視界が転がる……自分の体が見える。
だが、そっと……そっと、瞼が落ちていった。

「当然、もう終わってるよな」

アラッドがもしかしたらと思って周囲を見渡すが……本気になった騎士たちを相手に、己を鍛えもしない盗賊たちが十秒も……何秒も生き残れる筈がなかった。

(俺が…………やったんだな)

盗賊を……ゴミを、生きてれば関係ない人々を傷付けるだけのカスを殺しただけ。
それは解っている。

解っているが……その気持ち悪さが、言葉では言い表せない不快感が腹の底から膨れ上がってきた。

「ッ!!!」

すると当然、食べた物を戻してしまう。

「アラッド様、大丈夫ですか!!!!」

「……大丈夫、大丈夫だ。問題、ない。もう、いける」

多くの騎士がアラッドを心配して駆け寄ってきたが、アラッドは直ぐに元の表情に戻り、大丈夫だと答えた。

(今、この場で殺せて良かった。戦場で吐くとか、論外すぎるからな)

一応覚悟はしていた。
また初めてモンスターを殺した時と同じく、戻してしまうのだろうと。
覚悟はしていたが……言い表せない不快感に襲われ、防げなかった。

「全く、親としてはもう少し育ってから経験してほしかったんだけどね」

「……すいません」

「アラッドが無事ならそれで良いよ。内容は綺麗な圧勝だったわけだしね」

盗賊の強さを考えれば、万が一はないと思いつつもフールは敵を斬り裂く時に息子の方に目を向けていた。

目に移った光景は、無駄なく……攻撃されたことを気付かずにゴミを潰す……まさに子供離れした動きだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼馴染達にフラれた俺は、それに耐えられず他の学園へと転校する

あおアンドあお
ファンタジー
俺には二人の幼馴染がいた。 俺の幼馴染達は所謂エリートと呼ばれる人種だが、俺はそんな才能なんて まるでない、凡愚で普通の人種だった。 そんな幼馴染達に並び立つべく、努力もしたし、特訓もした。 だがどう頑張っても、どうあがいてもエリート達には才能の無いこの俺が 勝てる訳も道理もなく、いつの日か二人を追い駆けるのを諦めた。 自尊心が砕ける前に幼馴染達から離れる事も考えたけど、しかし結局、ぬるま湯の 関係から抜け出せず、別れずくっつかずの関係を続けていたが、そんな俺の下に 衝撃な展開が舞い込んできた。 そう...幼馴染の二人に彼氏ができたらしい。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...