スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
206 / 1,056

二百六話 次は本気の戦意を引き出す

しおりを挟む
「参りました」

「うむ、良い戦いだった」

二人の戦いは約十五分ほど続き……結果はバイアードの勝利で終わった。

「アラッド様、お疲れ様です」

「おう……ふぅーーーーーーー、超疲れた」

アラッドは全力で……途中からは殺気を撒き散らしながら戦った。

全力中の全力。
その状態で戦わなければ、バイアードの遊び相手にすらならないと思った。

「本当に良い戦いだった。当たり前だが、同年代でアラッド君に敵う者はいないだろう」

「ありがとうございます。でも、バイアードは全く全力じゃなかったですよね」

「……ふふ、悔しがるところはそこか。まぁ、これでも何十年と戦場に身を置いてきた。まだまだ若造には負けんよ」

確かにバイアードは全力中の全力で戦はなかった。
だが……アラッドが糸を使い始めてから、長年の経験で培った直感がなければ躱せなかった致命的な一撃が多いと感じた。

(とはいっても、アラッド君があと十年も経てば……私が老いるとはいえ、模擬戦では勝てなくなるだろう)

バイアード的には、学園を卒業してから数年経つ騎士を相手にする気持ちで戦っていた。

ただ、アラッドの手札は一般的な騎士とは違うため、警戒心だけはマックスに引き上げて戦っていた。

「そうですか……もし、次模擬戦をする機会があれば、バイアード様から本当の戦意を引き出せるようになります」

「楽しみにしとるよ」

今回の戦いで戦意が滾っていなかった訳ではない。

それでも、本当に面白い相手が現れ……見たことがない何かと戦う。
そんな気持ちが強く、敵を倒すための戦意は湧いてなかった。

まだまだ格上のバイアードに対し、アラッドは本気中の本気……バイアードを殺すつもりで戦った。
それでも足りないかもしれないと思っていたが……結果として、今のアラッドでは力及ばず。

「アラッド様、お見事です」

「うっす……でも、俺的にはあんまり良い結果じゃなかった」

「……確かに、負けという結果は良い結果ではありません」

どんな勝負の世界でも、負けは負け。
特に今回、アラッドは倒す気ではなく……殺すつもりで、モンスターと対峙する時と同じ気持ちで勝負を挑んだ。

にも拘わらず、結果はバイアードの本気を出すことができずに負けた。

「ですが、今のアラッド様であれば……新しく入隊した騎士には焦らず勝てるでしょう」

「……かもしれませんね」

入隊したばかりの騎士という言葉を聞き、アラッドの偶には以前軽く模擬戦を行った新入りの騎士……モーナが頭に浮かんだ。

(入隊したばかりの騎士だと、まず子供なのにあり得ない身体能力の高さを持っているって点で戸惑いそうだ)

その隙を許すアラッドではなく、もし新人の騎士と戦うことになれば、アラッドが考える通りになる可能性は非常に高い。

「そして、糸を使い始めれば……おそらく、騎士となって五年、六年と経つ者でも対応が困難になるかと」

「…………ダリアも、同じ感想?」

「そうっすね。お二人が戦っている最中に、もし自分がアラッド様と本気で戦ってたらって考えてたんすけど、二回か三回ぐらいは死んでたっすね」

「そうか……でも、次の戦いではそうはいかないだろ」

「そりゃ俺だって学っすからね。モニカも一緒だろ」

同じ護衛のモニカに話を振るが、振られた本人は大きなため息を吐きながら答えた。

「あんたねぇ……そもそも私じゃ、アラッド様と動きの速さが違い過ぎるの。今回の戦いでアラッド様の戦い方が全部分かっても、一対一の勝負じゃどう足掻いても無理よ。持ってるマジックアイテムとかフルで装備して良いなら話は変わるけど、それはフェアじゃないでしょ」

「うっ、すまん。分かった、俺が悪かった」

モニカの言葉通り、魔法使いがアラッドと戦うには分が悪過ぎる。

上級の魔法を速攻で放てるのであれば別だが、中級の攻撃魔法であればアラッドも速攻で放てる。
そして接近されると、魔法メインで戦う者のスピードや反応速度だと、糸まで意識を避けきれない。

(……いつか、あれに対応してみせる)

今の実力では、どんな奇跡が起きても勝てない。
それを改めて思い知らされたレイ嬢だが……それでも強くなりたい、アラッドに追いつきたいという闘争心は一ミリも小さくなっていなかった。
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

何でも奪っていく妹が森まで押しかけてきた ~今更私の言ったことを理解しても、もう遅い~

秋鷺 照
ファンタジー
「お姉さま、それちょうだい!」  妹のアリアにそう言われ奪われ続け、果ては婚約者まで奪われたロメリアは、首でも吊ろうかと思いながら森の奥深くへ歩いて行く。そうしてたどり着いてしまった森の深層には屋敷があった。  ロメリアは屋敷の主に見初められ、捕らえられてしまう。  どうやって逃げ出そう……悩んでいるところに、妹が押しかけてきた。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

処理中です...