上 下
202 / 984

二百二話 逃れられない責任

しおりを挟む
「アラッド様、道中は大変でしたね」

「ん? 何がだ」

レイ嬢とのデートが無事に終わり、夕食を食べ終えた後……いつも通り休むことなく錬金術の腕を磨くために、ポーション造りを行うアラッド。

「その……途中で失礼な子供がお二人に声を掛けたじゃないですか」

「あぁ~~、確か……ネーガル、だったか」

「この街を治めている貴族の令息です」

「らしいな……まぁ、後ろの騎士二人を使って実力行使することはなかったから、特に困らなかったな」

困る、面倒と感じるよりも……マナー違反を堂々と行うネガールを見て面白い、可哀想と思うところが大きく、面白いものを見れた……というのが正直なところ。

「はは! 仮に騎士二人を使おうとすれば、俺たちが出動してしたっすよ」

「そうなるだろうな……そっちの方が、有難い」

日々努力を欠かさないアラッドだが、流石にネガールの後ろにいた騎士二人が動けば……手加減をする余裕はない。
最悪の場合、殺してしまう可能性があった。

そう考えると、陰から見守ってくれていたガルシアやダリアが出動してくれる方が、色々と有難い。

「普通に考えてあり得ないのですけどね」

モニカの言葉通り、ネガールの行動は貴族として……いや、人間の常識的に考えて、マナー違反。
後ろに騎士二人を従えてやって来るあたり、性根が腐っていると感じた。

「モニカの言う通りだな。アラッド様は優しいが、アラッド様ぐらいの立場であれば……打ち首は無理だとしても、その場であの令息をボコボコにしても、文句は言われないっすよ」

「ふ~~~~~ん…………俺としては、滑稽だったし……あれはあれで見てて面白かったからな……今更好きなだけ殴ってもらって構わないって言われても、ボコボコにするつもりはないですよ」

その言葉に嘘はなく、アラッドは心の底からネガールの行動を見てて面白いと思っていた。

(行動自体はよろしくない事だけど、あそこまであっさり断られるところを見ると……ふふ、思い出しただけでも笑ってしまうな)

自信満々に声を掛け……尚且つ、隣に立っている少年よりも自分の方が上だと思わせる。

ネーガルとしては、レイ嬢が自分の誘いに乗ってくれると完全に思っていた。
自身に満ち溢れており、失敗するなんて思っていなかった……これを機に、気になる人との距離を縮められるかと思っていたのだ。

だが、その想いは呆気なく打ち砕かれた。
有無を言わさぬ態度で……言葉で砕かれたのだ。

ネガールの精神ダメージが回復した頃には、二人の姿はなく……自身の恋が終わったという絶望に浸るしかなかった。

「心が広いっすね。けど、あの令息のやられようは確かに滑稽だったっすね」

「同感ね。あそこまでバッサリフラれると……ほんの少しだけ可哀そうとすら思える」

滑稽で可哀想。
その感想はガルシアとシーリアも含めて同じだった。

「あっ、そういえばバイアード様とグラストさんが領主の屋敷に向かったらしいっすよ」

「何をしに……っていうのは愚問か」

ネガールの行動を考えれば当然の結果。

ただ……父親であるナーガ・レンバルトだけは少々可哀そうだと思った。

(子が起こした責任を親が取るのは当たり前かもしれないけど……それでも二人から説教? されるのはな……大人でもビビるだろうな)

普段は柔らかい物腰の二人だが、怒りの感情が表に出れば……大の大人でも耐性がなければ、震えビビってしまう。

ナーガとしては自分の息子よりもアラッドの方が優秀なんてことはあり得ない!!!! なんて頭に虫が湧いてるかの様な考えは持っていない。

子爵家ということもあり、アラッドがレイ嬢以外の令息や令嬢たちとお茶会をし……友好関係を持ったという話は耳に入っている。

ネーガルはその話を知らなかったが……親であるナーガは教育に失敗してるとは思っていなかった為、まさか自分の言葉がマナー違反を堂々と行うとは一ミリも考えていなかった。

そのため、騎士から事の顛末を聞いた領主は卒倒しそうになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...