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二百一話 手が止まらない
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甘いものは別腹……そう、誰かが言い始めた。
(……さっきのネーガルって奴に邪魔されて、相当嫌だというか……ストレスを感じたのか?)
所作はとても奇麗なのだ。
全く乱暴、雑な動きはない。
貴族の令嬢らしく、丁寧に……味わって食べている。
だが……その小さな体のいったいどこに入るのか。
思わずそんな疑問が浮かんでしまうほど、レイ嬢のスイーツを食べる速度が落ちない。
店の従業員だけではなく、周囲のお客さん達もアラッドと同じ事を考えていた。
「……レイ嬢。美味しいですか」
「む。あぁ、勿論だ。いくらでも食べられる」
「そ、そうですか。それは良かったです。どんどん食べてください」
いくらでも食べられるのは、先程の一件でイライラした感情を消し去る為なのか。
それとも、単純に甘い食べ物であればいくらでも入る別腹があるからこそ、食欲が尽きぬのか。
(どう考えても、普段の夕食より食べてるよな)
日頃から動くレイ嬢は、朝昼晩の食事は一般的な令嬢よりも多く食べる。
それはアラッドもここ数日間、殆ど一緒にいるので分かっていた。
(……これだけスイーツを食べても、夕食はしっかり食べそうだな)
なんて思いながら、アラッド自身もマイペースにスイーツを頼み、注文を重ねていく。
ただ、そんな時間が続き……ようやくレイ嬢のスイーツを食べる手が止まった。
(…………す、少し食べ過ぎたか?)
腹に満腹感を感じたから、自分が頼んだすいうーつの合計値段を気にし始めた……といった理由で食べる手が止まったのではない。
単純に、一応気になっている……尊敬している相手の前で、スイーツとはいえば爆食いしてしまった。
その結果、目の前の相手にどんな印象を与えてしまったか……そこが気になり、手を止めたのだ。
「? レイ嬢、そろそろお腹一杯ですか?」
「い、いや。そういうわけではない」
と、乙女であれば否定するところかもしれないが……レイ嬢は馬鹿正直に答えてしまった。
だからといって、アラッドのレイ嬢に対する印象が変わることはない。
「そうですか。自分も何故か甘いものだといくらでも食べられるので、中々食べる手が止まりませんね」
アラッドの言葉に、店内の客が一斉に頷いた。
そもそも値段が少々高いという点があるが、あまり食べ過ぎると体重に影響する……という認識を持たれているスイーツ。
女性達もそれが分かっていながらも……やはり、食べられるのであれば手を止めることが出来ない。
「そ、そうだな……アラッド、私のケーキを……一口食べるか」
「……」
レイ嬢からの提案に、アラッドはどう答えるべきか少々迷った。
だが、ここで断るのはよろしくないという決断に至り、その提案を受けることにした。
「それでは、一口頂きます」
「う、うむ」
アラッドがレイ嬢の提案を受けると、一口分をフォークですくい……そのままアラッドの口へと持っていった。
少々戸惑いながらも、こういった流れになるのだろうと分かっていたので、戸惑いを一瞬に抑えてぱくりとく食べた。
「……美味しいですね。それでは、レイ嬢。こちらのケーキを一口どうぞ」
「ッ! ……あ、ありがとう」
アラッドからの提案を受け入れ、頬を赤くしながらもゆっくり口を開けた。
そしてアラッドは変な間を置くことなく、切り取った一口サイズのケーキをレイ嬢の口に持っていく。
「どうですか」
「……とても、美味しい」
「それは良かったです」
ケーキの味がレイ嬢の味覚にベストマッチするものだったのか、それともシチュエーション故に普段よりも美味しく感じたのか……それはレイ嬢にしか分からなかった。
ただ……そんな二人の初々しいやり取りを見ていた周囲の大人たちは、とても心が穏やかな気持ちに……ほっこりとした。
そしてイライラしていたレイ嬢の心もそこで落ち着き始め、別腹も満たされた。
(……さっきのネーガルって奴に邪魔されて、相当嫌だというか……ストレスを感じたのか?)
所作はとても奇麗なのだ。
全く乱暴、雑な動きはない。
貴族の令嬢らしく、丁寧に……味わって食べている。
だが……その小さな体のいったいどこに入るのか。
思わずそんな疑問が浮かんでしまうほど、レイ嬢のスイーツを食べる速度が落ちない。
店の従業員だけではなく、周囲のお客さん達もアラッドと同じ事を考えていた。
「……レイ嬢。美味しいですか」
「む。あぁ、勿論だ。いくらでも食べられる」
「そ、そうですか。それは良かったです。どんどん食べてください」
いくらでも食べられるのは、先程の一件でイライラした感情を消し去る為なのか。
それとも、単純に甘い食べ物であればいくらでも入る別腹があるからこそ、食欲が尽きぬのか。
(どう考えても、普段の夕食より食べてるよな)
日頃から動くレイ嬢は、朝昼晩の食事は一般的な令嬢よりも多く食べる。
それはアラッドもここ数日間、殆ど一緒にいるので分かっていた。
(……これだけスイーツを食べても、夕食はしっかり食べそうだな)
なんて思いながら、アラッド自身もマイペースにスイーツを頼み、注文を重ねていく。
ただ、そんな時間が続き……ようやくレイ嬢のスイーツを食べる手が止まった。
(…………す、少し食べ過ぎたか?)
腹に満腹感を感じたから、自分が頼んだすいうーつの合計値段を気にし始めた……といった理由で食べる手が止まったのではない。
単純に、一応気になっている……尊敬している相手の前で、スイーツとはいえば爆食いしてしまった。
その結果、目の前の相手にどんな印象を与えてしまったか……そこが気になり、手を止めたのだ。
「? レイ嬢、そろそろお腹一杯ですか?」
「い、いや。そういうわけではない」
と、乙女であれば否定するところかもしれないが……レイ嬢は馬鹿正直に答えてしまった。
だからといって、アラッドのレイ嬢に対する印象が変わることはない。
「そうですか。自分も何故か甘いものだといくらでも食べられるので、中々食べる手が止まりませんね」
アラッドの言葉に、店内の客が一斉に頷いた。
そもそも値段が少々高いという点があるが、あまり食べ過ぎると体重に影響する……という認識を持たれているスイーツ。
女性達もそれが分かっていながらも……やはり、食べられるのであれば手を止めることが出来ない。
「そ、そうだな……アラッド、私のケーキを……一口食べるか」
「……」
レイ嬢からの提案に、アラッドはどう答えるべきか少々迷った。
だが、ここで断るのはよろしくないという決断に至り、その提案を受けることにした。
「それでは、一口頂きます」
「う、うむ」
アラッドがレイ嬢の提案を受けると、一口分をフォークですくい……そのままアラッドの口へと持っていった。
少々戸惑いながらも、こういった流れになるのだろうと分かっていたので、戸惑いを一瞬に抑えてぱくりとく食べた。
「……美味しいですね。それでは、レイ嬢。こちらのケーキを一口どうぞ」
「ッ! ……あ、ありがとう」
アラッドからの提案を受け入れ、頬を赤くしながらもゆっくり口を開けた。
そしてアラッドは変な間を置くことなく、切り取った一口サイズのケーキをレイ嬢の口に持っていく。
「どうですか」
「……とても、美味しい」
「それは良かったです」
ケーキの味がレイ嬢の味覚にベストマッチするものだったのか、それともシチュエーション故に普段よりも美味しく感じたのか……それはレイ嬢にしか分からなかった。
ただ……そんな二人の初々しいやり取りを見ていた周囲の大人たちは、とても心が穏やかな気持ちに……ほっこりとした。
そしてイライラしていたレイ嬢の心もそこで落ち着き始め、別腹も満たされた。
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