上 下
188 / 984

百八十八話 成長している

しおりを挟む
翌日、アラッドたちは変わらず街の外に出て手頃のモンスターを探し、全て仕留めていた。

(……分かってはいたけど、やっぱり身体能力が凄いな)

現在、アラッドの目の前ではレイ嬢がゴブリンを相手に素手で戦っていた。

先日アラッドにメインの武器以外に、どんな武器を扱えるようになれば良いかと問い、自分を求めているのか、それが重要だと言われた。

そして自分が何を求めているのか……今はまだしっかりと分からなかった。
だが、とりあえず武器が手元から飛んでいってしまった時に、戦える方法があった方が良いという発想に至った。

貴族の血統なので、レイ嬢もそれなりに魔法は使える。
ただ、アラッドの様に詠唱なしでバンバン放てるほど、まだ腕は高くない。

というわけで、一先ず素手で戦える様になろうと思い、現在手頃なモンスターであるゴブリン達を素手でボコボコにしている。

(同じ歳の男子でも……あそこまで軽くボコボコに出来るか?)

背丈は大して変わらないが、それでもモンスターということに変わりはない。

しかしレイ嬢は複数で襲って来るゴブリンに臆することなく、冷静に拳と蹴りを叩きこむ。
その一撃一撃がゴブリンにとって必殺となり、ほぼ一撃で沈んでいく。

攻撃を放てば即座にその場から移動し、死角から襲って来ようとするゴブリンの攻撃を全て躱し、シーリアの手助けは一切必要ない状態。

「ふぅーーーー……ゴブリンでは自分が上手く戦えたか、いまひとつ分からないな」

「そんなことありませんよ。先日よりも複数の敵と上手く戦えてたかと」

「そうか? アラッドにそう言ってもらえると嬉しいが……だが、中々体術で戦うのは慣れないな」

元々体術の訓練は行っておらず、見様見真似で蹴りやパンチを放っていた。

(今までロングソードばかり訓練を行ってたって考えると、十分に上出来だと思うんだが……まっ、向上心があるのは良いことだよな)

「そこら辺は積み重ねですからね……次は、俺が戦いましょう」

ゴブリンの血の匂いに釣られ、一体のモンスターが現れた。

現れたモンスターはフォレストモンキー。
Dランクのモンスターであり、基本的には引っ掻きや咬みつき、偶に尾を使って攻撃するが、木魔法による遠距離攻撃も行える厄介者。

(フォレストモンキーが一体は珍しいな。本来は複数で行動するモンスターなんだが……まっ、こっちとしては好都合で有難い)

既にフォレストモンキーは一歩前に出てきたアラッドを敵と認定し、ウッドアローの詠唱を始めていたが、高速詠唱でもない限り……発動することは不可能。

「よっと」

「ウギっ!?」

そこら辺に落ちていた石ころを投げ、放たれた石ころはフォレストモンキーの腹に命中。

投擲によって詠唱は中断され、それがフォレストモンキーの怒りに触れ……一目で怒っていると解る表情でアラッドに襲い掛かった。

「よっ、ほっ」

「っ!?」

降りかかる右手を左手で払い、正拳を腹にぶち込む。

強化系のスキルは一切使っていないが、それでもきっちり腰を捻り、脚も移動して重さが乗った正拳を放った。
中々思い一撃だったこともあり、確実に骨に罅は入っていた。

(やべっ、結構良いのが入った気が……あっ、まだ大丈夫そうだな。良かった)

レイ嬢に手本を見せようと思い、フォレストモンキーは人型なので丁度良い相手。

適度に距離を詰め、木魔法を一切使わせない。
そうなれば、フォレストモンキーは必然的に接近戦を行うしかない。

手に脚、尾を使って全力で攻撃を行うが、アラッドは最初と同じくフォレストモンキーの攻撃は手か脚で弾き、打撃を与える。

(フォレストモンキーとはいえ、あそこまで綺麗に対処するか……これは、武道家としても一流の域まで登るのは確実だな)

バイアードは体術に関して細かい部分は分らず、体技のスキルは習得しているものの、今まで持った才能だけで上げてきた。

故に体術に関しては細かい指導が出来ないが……それでもアラッドの一手一手の反撃に美しさすら感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...