上 下
187 / 992

百八十七話 楽しかったけども

しおりを挟む
「アラッド様、レイ嬢とのデートはどうだったっすか?」

「えっ? いや、別にデートってほどのもんでもないだろ……うん」

美味な夕食を食べ終えたアラッドは、先日と同じく腕が鈍らないようにポーション造りを行っていた。

「いやいや、何を言ってるんすか。男女が一緒に遊ぶとなれば、それはもうデートっすよ。タニアもそう思うよな」

「そうですね……ダリアの考えは間違っていないと思いますよ」

いつも軽いノリのダリアの言葉に冷静なタニアが賛同し、逃げ道が無くなった。

ガルシアとシーリアの方に顔を向けると、二人は申し訳なさそう人しながらも……ダリアと同意見です、と言いたげな表情になっていた。

「ほら、ダリアもこう言ってることだし……どうだったんすか」

「だうだったと言われてもな……別にそんな特別なことはしてないぞ。お前らも見てただろ」

「ッ!? き、気付いてたんすね」

アラッドの鋭い目を向けられたダリアは隠しても無駄だと感じ、素直に二人の安全の為に付けていたことを白状した。

「気付くに決まってるだろ」

「いや~~~、それでも気配を消すのには自信があったんっすけどね」

「まだまだってことだろ。ガルシア、お前もいただろ」

「ッ!!?? す、すいませんでした!!!」

「いや、別に頭は下げなくて良いって。俺やレイ嬢のことを心配に思っての護衛だろ。別に怒ってないから、頭を上げろ」

「うっす」

本当に……全く、一ミリもアラッドはダリアたちに影から護衛されていたことに起こっていなかった。

(俺はまぁ……初っ端に眠らされたりしなければ、プロが相手でも逃げ切れることは不可能じゃないと思うが、レイ嬢はまだ無理だろうな……俺が一緒に居たところで、完全に逃げ切るのは難しい)

自身が持つ手札を……糸を含めて使い切れば、プロの裏の人間でも一回だけなら逃げ切れると思っている。

ただ、そこにレイ嬢というお荷物が加わってしまうと……さすがのアラッドでも、プロから逃げ切るのは不可能に近い。

「にしても……なんで分かったんすか?」

「なんでって、お前たちがずっと俺とレイ嬢に意識を向けていただろ。状況は違うが、それは森の中で常にモンスターに狙われてる状況と変わらない」

「い、いや~~~……確かにそうかもしれないっすけど……普通は気付かないっすよ」

「普通の令息がCランクのモンスターを一人で倒すと思うか?」

「あぁ~~~~……はは、それもそうっすね」

他の者に言われるよりも先に、自ら普通ではないと答えた。

転生者であるアラッドには、その自覚が十分にある。

「まぁ…………ダリアたち以外の視線もあったけどな」

「……やっぱりそっちも気付いてたんすね」

「気配は上手く消されてたから、ハッキリと詳しい場所までは分らなかったが……あんまり良くない視線を向けられてるのだけは感じた……っておいおい、ガルシア。殺気が漏れてるぞ」

「ッ! す、すいません。つい」

「全く……心配してくれるのは嬉しいけど、街中で暴れる時はあんまり周囲を壊さないようにしてくれよ」

無いに越したことはないが、それでも裏の人間に襲われる様な事になれば……護衛であるガルシアたちが裏の人間とバチバチに殺り合うのは必然。

(にしても、まさか裏の人間? の標的にされてるかも……なんて状況に遭遇するとはな。狙いは父さんの息子である俺か……それともバイアード様の孫娘であるレイ嬢か……自分で言うのもあれだが、どっちも可能性はありそうだな)

アラッド個人としては、自分よりもレイ嬢が狙われる可能性が高いのでは? と思い……一緒に狩りを行うまで、気の抜けない日々が続きそうだなと思ってしまった。

「……んで、話を戻すっすけど。デートの感想はいかがっすか」

「ん~~~~……楽しかった、とは思ってるよ。でも、俺としては……まだ、ガルシアやグレイスさんたちと模擬戦したり、錬金術で何かを造ってる方が楽しいかな」

アラッドらしい答えと言えばそうなのだが、ダリアやガルシアたちはこの先アラッドに良い人が見つかるのか、少々不安になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...