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百八十三話 自分が渡したいと思ったから

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「? 何か良いアクセサリーでも見つかったか」

「良いアクセサリーというか……ちょっと気になったアクセサリーはありました。あちらの髪留めです」

アラッドが指をさす先には、透明度が高い青の宝石が付いた髪留めが置かれていた。

「お客様、こちらの商品をお求めでしょうか」

二人がとある髪留めについて話しているのに気づき、一人の店員がアラッドが気になっていた髪留めを二人の元へ持ってきた。

「お求めというか、彼女に……レイ嬢に似合うかと思って」

「えっ?」

アラッドの言葉を聞き、レイ嬢の口から間の抜けた驚きの声が零れた。

「わ、私にか?」

「……なるほど、確かにお客様にお似合いの一品かと思われます」

店員は何故、髪や服装が紅メインのレイ嬢に対して、透明度が高い青色の宝石が目立つ髪留めが似合うと思ったのか、アクセサリー店員としての勘で分った。

「その……深い紅の中に、こういった透明な青をメインとしたアクセサリーがあると、より美しくなると思いまして」

「そ、そうか……あ、ありがとう」

レイ嬢は今まで、その美しくも強さを感じる紅の髪を持つお陰で、そういった色をベースとしてプレゼントを受け取ることが多かった。

それは決して気分が悪いことではなかったが、青色をメインとしたアクセサリーなどを受け取ったことがなかった。

(……まぁ、別にプレゼントぐらいしても問題はない……よな)

単純に、目に留まった髪留めがレイ嬢に似合うと思い、他意はなく購入を決意した。

「すいません、こちらの髪留めの値段は幾らでしょうか」

「こちらは金貨三十枚となります」

髪留めは一応マジックアイテムであり、心が荒れそうになった時、自然と落ち着かせる精神作用の効果を持つ。

店員はアラッドが子供だからといって、物の価値が解らないだろうと思って吹っ掛けたりはしていない。
付与された効果に、青色宝石の値段を考えると、金貨三十枚が妥当な値段となっている。

「分かりました…………これで、丁度かと」

アラッドは亜空間の中からジャラジャラと大量の金貨が入った財布を取り出し、店員がもう片手に持っていた硬貨を置く台に丁度金貨三十枚を置いた。

「あ、アラッド! 私は何も言ってないぞ!」

「レイ嬢、これは俺が単純に……貴女に似合うと思ったので、自分の金で買って貴女に渡したいと思っただけです」

レイ嬢としては嬉しい……非常に嬉しくはあるが、店に入ったとしてもお互いに何も買わずに出ると思っていた。
ましてや、アラッドが自分に何かをプレゼントしてくれるなど、全くの予想外。

(おぉ~~~~。やりますね、アラッド様。中々太っ腹……口ではあぁ言っていますが、もしや……するのでしょうか?)

変装して店内をブラブラしているタニアはアラッドの行動を見て、勝手に自分の中でレイ嬢をアラッドの第一嫁候補に認定した。

「確かに丁度、お預かりいたしました。それでは、入れ物を用意いたしますので少々お待ちください」

アラッドから確かに金貨三十枚を受け取り、店員は早歩きで髪留めの入れ物を取りに向かった。

「アラッド、その……ありがとう。と、言っておく」

「ふふ。俺がレイ嬢に渡したいと思っただけですので、お気になさらず」

「いや、そういうわけにはいかない。アラッドの気持ちは嬉しいが、何か返さないと、こう……もやもやするのだ」

「そうですか……であれば、その何かを楽しみに待っています」

「うむ、待っていてくれ。きっとアラッドが満足する物を送ろう」

店員から髪留めの入った箱を受け取り、二人は店の外に出た。
そしてレイ嬢は今回のデートでアラッドが自分にばかり気を使っていると思い、自分だけではなく……アラッドも楽しめる場所に行こうと提案。

その提案はアラッドにとって有難く……二人が目指した場所は武器屋だった。
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