上 下
174 / 984

百七十四話 いつ、そんな敵と出会うか

しおりを挟む
冒険者ギルドの訓練場で何度も模擬戦を行った後、湯船で疲れを落としたアラッドたちは宿の食堂に集まっていた。

といっても、一つのテーブルに集まっている面子はアラッドとグラストとレイ嬢、そしてバイアード。
ガルシアとシーリアは立場としては奴隷なので、こういった場では同じ席に座れない。

それを不憫に思ったダリアとモニカは夕食を部屋に持ってきてもらい、四人で夕食を食べていた。

「アラッドの武器使いに本当に驚かされた。どの武器も一流以上の腕だった……いったいどんな訓練をしているのだ?」

実際のところは本当の一流から見れば、まだまだ拙い部分はある。
だが、まだ七歳という年齢を考えれば……レイ嬢が未だ驚きの熱が冷めないのも仕方ない。

「……訓練の合間に基本的な動作を積み重ね、実際に模擬戦でも使う。そして……弱いモンスターを相手に実戦で使い、徐々に戦う相手の強さを上げていく。といった流れですね」

アラッドとしては、特に特別な修行をしているとは思わっていない。
ロングソードや体術と同じ様に、普段の訓練から腕を磨き……最後は実戦で仕上げていく。

それの繰り返しを行っていけば、自然とそれなりに扱えるようにはなる。

「やはり、何度聞いてもモンスターを相手に実戦で戦っているという事実には驚かされる」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。だが……レイ嬢も、既にモンスターと戦ったことがあるのであろう」

今回、レナルトという街に集まり、初めて一緒に狩りを行う。

レイ嬢の性格から、足手まといにならない様に調整してくるとは思っていた。
ただ……それよりも、少し前までと比べて雰囲気が少し違う。
本能がその少しの違うに気付いた。

「ふふ。そこに気付いてくれるのは嬉しいぞ」

「はっはっは! さすがアラッド君じゃな。そこを乗り越えた者は大なり小なり雰囲気が変わるものだが、まさか一目で気付くとは」

「以前、手合わせした時よりも少し力が強くなっていましたし、今日一日で気付ける部分がありました」

短期間で身に付く力ではない。
特にマジックアイテムを身に着けていなかったので、上がった力の要因は一つに絞られた。

レベルアップによる身体能力の向上。

「そこを見抜くだけでも大したものよ。グラストもそう思わんか」

「えぇ、アラッド様は実戦的な実力だけではなく、観察眼も優れているかと」

二人してアラッドのことを褒め、当の本人は少し恥ずかしい気持ちを持っているが……まだまだ自分が敵わない人たちから褒められるのは、やはり嬉しかった。

(有難いお言葉だけど……そうやって、外堀を埋めようとする感じは是非とも止めてほしい)

バイアードもグラストも、アラッドの気持ちを理解しているので騎士の道を選ばそうとはしていない。

グラストにいたっては、アラッドが日々努力を重ねて自信の実力に驕らない姿勢を尊敬しているからこそ、単純に褒めているだけだった。

「アラッドは……モンスター対峙して、怖いと感じたことはあるか? 私はある」

レイ嬢の立場を考えれば、あまり他家の者に弱みを見せてはならない。
だが、アラッドであればそれを知られても構わないと思い……モンスターに恐怖を感じた事実を伝えた。

そして、アラッドは恐怖を感じたのかを尋ねた。

「…………まだ、ないかもしれない。いや……まぁ、そうだな。心底恐ろしいと感じたことはないと思う」

初めてCランクのモンスター……メタルリザードと戦った時は、クロと一緒に戦ったとはいえ若干の圧を……強さを身に染みて感じた。

だが、恐怖で体が固まってしまうほどの衝撃はなかった。

(オーアルドラゴンについては隠しとかないとな)

しかし、今の自分では絶対に勝てない。
そう感じさせる存在感を放ち、実際問題として全く勝負にならないモンスターと遭遇したことはあった。

「アラッド君ほどの実力であれば、心の底から恐ろしいと感じる相手とは中々出会わないかもしれんな」

「慎重に動いてるだけです。あまり無理をすれば……進むと決めた道が途絶えるかもしれませんから」

一見、万能に思えるかもしれない糸も、どんなモンスターが相手でも有効打になる訳ではない。
冒険者になる前に死んでしまっては元も子もない。

そう考えているアラッドだが……アラッドの戦歴を知っているグラストからすれば、少々頭の上にはてなマークが浮かぶ言葉だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...