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百七十三話 寄り道するのもあり

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「少し、武器を変えましょうか。同じ武器ばかりというのもあれなので」

レイ嬢との模擬戦中、アラッドは木剣を戻して木槍を取り出した。
剣ではなく槍に変えたことに対して、レイ嬢は特に文句は言わなかった。

そして……アラッドが県から槍に変えたところで、何か大きな差があるとも思えない。

「ほぅ……グラストよ。アラッド君は槍もいけるのか」

「メインの武器はロングソードとおっしゃっていますが、その他の武器も並以上に扱えます。本人は剣ばかり突き詰めていてもいずれ苦しくなる。だから、偶には寄り道するのもあり……他の武器は趣味の様なものとおっしゃっていました」

「あの動きで趣味、か……槍を主に鍛えている子供がその言葉を聞けば、泣き出すかもしれんな」

何度目になるか分からないレイ嬢とアラッドの模擬戦が始まり、アラッドはレイ嬢の全力を受けきってから攻撃に移るのではなく、攻撃と防御をテンポ良く行いながら戦っていた。

一見、二人の模擬戦は良い勝負に見えるかもしれないが、内容は良く見ればアラッドが圧倒的であることは直ぐに分かる。

アラッドはレイ嬢の突きや斬撃を的確に防御し、躱している。
それに対してレイ嬢はアラッドの攻撃を躱す余裕はなく、ギリギリで防御するのが精一杯。

元々のスタミナの量を考えれば、その結果は当然と思うかもしれない。
だが、バイアードはアラッドが完全にレイ嬢の力量を見極めて攻撃を行っているのを理解している。

(レイと同年代の子供がレイの動きを見極め、丁度良い具合に動きを合わせるか……これはもしや、将来は師としても優秀な存在になるかもしれんな)

バイアードはアラッドの動きから、将来的には指導者としても優秀になるかもしれない思い……まともや騎士の道に誘いたいという思いが再熱した。

それから双剣やハルバードなど、様々な武器でレイ嬢を相手したアラッド。
結果は言わずもがな、アラッドの勝利。

少し前まではバイアードと模擬戦を行っていたレイ嬢に視線が集中していたが、今はそれらの視線が殆どアラッドに集中している。

「おいおい、あっちの男の子ヤバくないか? どう考えても普通じゃないだろ」

「いや、あっちのお嬢ちゃんも普通じゃないだろ。まぁ……あっちの子供はその嬢ちゃんを軽く相手してるし……どっちも普通じゃないな」

「冒険者ギルドで模擬戦してるってことは、将来冒険者になるのか? だとすれば、絶対に一気にランクを駆けあがるだろ」

「強ければランクが直ぐに上がるってもんじゃないけど……強さだけを切り取って考えれば、確かにあっという間にCランクぐらいには駆け上がるかもな」

今のところレイ嬢は未定だが、アラッドは冒険者の道へ進むと決めている。
なので、アラッドにその意思があれば一気に冒険者ランクを駆けあがり、一躍有名人になるのも不可能ではない。

「レイ嬢次はうちの者と戦ってみますか? ガルシアやシーリアと戦うのも良い経験になると思いますが」

「ふむ、それもそうだな。是非ともお願いしよう」

軽く説明しているので、二人がアラッドとどういった関係なのかは既に把握しており、模擬戦を行うことに戸惑いはない。

そしてガルシアと令嬢が模擬戦を行っている間、アラッドは一旦休息を取った。

「何度も娘の相手をしてもらってすまんな、アラッド君。ただ、孫娘は君ともう一度戦えることを楽しみにしていたんだ」

「いえいえ、レイ嬢との模擬戦は楽しいですし……レイ嬢も同じ思いを持っている様なので、俺ももう一度戦えて
良かったと思っています」

ある程度自然と喋れるようにはなったが、やはりまだ緊張感は抜けない。

ガルシアとしては世間話をし、仲良くなろうと思って声を掛けたのだが……それでもアラッドにとっては勘弁してほしい思いがこみ上げる。

(すうーーーー……ふぅーーーーーー。落ち着くんだ。ここで本音を零してしまったら、レイの邪魔をしてしまう)

婚約云々は置いといて、子供同士の仲に亀裂を入れてしまうかもしれないと思い、ぐっとさそいたいきもちを抑えてお互いの日常について話し合った。
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