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百六十話 部屋の匂いがいつもと違う

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(……ね、寝れない)

初めてオークションに参加した日の夜、アラッドはいつも通り疲れが取れる快眠ベッドで横になっているのだが、何故か今日は直ぐに意識がシャットダウンしない。

(やっぱり他の部屋で寝てもらうべきだったか?)

気まぐれで五人の奴隷を購入したアラッドだが、彼女たちの部屋についてまったく考えていなかった。
なので余っているベッドをアラッドの部屋に移し、五人とも既に夢の中へと飛び立っている。

だが、そんな中でアラッド一人だけはまだ飛び立てていない。
その理由は……いつもと違い、部屋の中に漂う甘い匂い。

それがアラッドの睡眠を妨げていた。

(ガルシアは……もう寝てるのか? 凄いな。俺は緊張してまだまだ全然寝れてないってのに……顔は結構イケメンだったし、傍に女性がいる環境には慣れてるのか?)

アラッドも含めて六人の中でアラッドと同じ男であるガルシアは妹のレオナと同じベッドで熟睡していた。

しかしアラッドが考えは外れており、ガルシアも通常時であればこんな状況ではあっさりと寝付けない。
それでもガルシアがアラッドと違ってぐっすり寝れている理由は、買われた先がまともだったから。

ガルシアにとって妹のレオナは命を懸けてでも守りたい存在。
それでも買われた先によっては、レオナの傍から引き離されるかもしれない。
大事な妹を守れないかもしれないという大きな不安があったが、自分たち二人を買った者はまさかの子供。

主人となった少年は今のところ残虐で残忍な性格を持っているとは思えず、不安が一気に解消された。
完全に信用出来るかどうかはまた別だが、これからも妹を守れる……そう思えた彼は就寝時に抗えない睡魔に襲われ、糸が切れたかのように寝た。

(こういう時は……羊の数を数えれば寝れるか?)

明日の朝もスッキリ起きる為に、早く寝ようと思ったアラッドは羊が一匹二匹と数え始め、千匹を超えたあたりでようやく寝ることが出来た。

そして翌朝、いつも通りの時間帯に起きると……周囲にはメイド服を着たエリナとシーリア、レオナとリン。
執事服を着たガルシアが立っていた。

「おはようございます、アラッド様」

「おはようございます」

「おはようございます!!」

「おはようございます!!」

「おはようっす」

「……おはよう。ところで、なんで皆従者用の服を着てるんだ?」

昨日参加したオークションで彼女たちを落札したのはきっちり覚えているので、自室に知らない人が立っていると驚くことはなかった。

だが、何故エリナたちが従者用の服を着ているのか。
それだけはアラッドにとって謎だった。

「フール様がご用意してくださいました」

「と、父さんが……とりあえず分かった」

エリナたちが従者用の服を着ている理由は分かった。
ただ……アラッドはエリナたちを自分の従者にしようとは一ミリも考えていない。

(今のところ模擬戦の訓練相手になってもらおうと思ってただけなんだが……困ったな)

そう思いながらもベッドから降りて着替えようとするが……エリナたちが何故かアラッドの服を持っていた。

「……エリナ、なんで俺の服を持ってるんだ?」

「アラッド様のお着替えをするのも私たちの役目と思いまして」

「そういうのは良いから外で待っててくれ!!」

無理矢理五人を部屋の外に追い出し大きなため息をつきながら私服に着替え始める。

(勘弁してくれ。もう七歳なんだから服ぐらい自分で着替えられる……てか、七歳でなかろうとも服は自分で着替えるぞ)

美女、美少女に着替えさせてもらう。
それはそれで男としての本能が元気になってしまうシチュエーションかもしれないが、アラッドは朝から元気になるつもりは一切ない。

(まぁ、まだまだ身体機能的に俺のムスコが元気になることはないんだが、もう赤ちゃんと違って普通に動けるんだから着替えぐらい自分でさせてくれ)

若干恥ずかしさが心に残りながら家族が待つ食堂へと向かった。
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