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百五十一話 困ったら一礼

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「六十枚!!!」

金貨五十五枚で落札……そう思われた時、一人の声が会場に響いた。

隣に座っている正体を隠したフールとグラストは全く驚いていないが、オークションに参加している者たちは驚きの表情を隠せないでいた。

何故なら……声だけでは分からなかったが、声を発した者の外見は……紛れもなく子供。

両隣りの大人が六十枚と発したのではなく、真ん中の子供が六十枚と宣言したのだ。

「ぐ、ぬぬ……六十五枚!!!!」

六十枚と値を吊り上げた者の外見に驚かされたが、先程五十五枚と宣言した貴族はもう金貨五枚、値段を上げた。

その者にとっては、自分の懐事情を考えてギリギリ上げることが出来る上げ幅。

だが、アラッドにとって落札額を更に金貨五枚ほど上げるなど、容易いことだった。

「七十枚!!!」

同じ少年が値段を更に上げたことで、会場にはどよめきが広がる。
アラッドと競った者は五十五枚の時点でかなりギリギリだったが、無理して六十五枚まで上げた。

だが……さすがに七十枚まで上げられては、手の出しようがない。
ここで七十一枚と上げても、少年が即座に落札額を上げてくるのは目に見えている。

「ぐっ……ここまでか」

ミスリル鉱石を欲しがっていた貴族はここで戦線離脱。

「七十枚、七十枚が出ました!!! よろしいでしょうか……七十枚で決定でよろしいでしょうか……七十枚で決定です!!!!」

司会者が落札決定と宣言すると、アラッドに向かって賞賛の拍手が向けられる。
それはアラッドと競った者も例外ではない。

商品を競り落とした者に拍手の嵐が送られるのは知っていた。
だが、いざ自分がその拍手の嵐を向けられると……どう反応すれば良いのか戸惑ってしまう。

そしてアラッドは一先ず拍手を送ってくれた者たちに対し、一礼をした。

「ふふ、とても堂々としていてカッコ良かったよ」

「私も同意見です」

「……それはどうも」

オークションに参加するというのは初めての経験ではあったが、何故かサラッと……堂々と落札額を宣言することに成功。

(なんでだ? 別に前世でこういった場面に慣れていた訳ではないんだが……もしかして、パーティーやお茶会に参加したから、それで耐性が付いたのか?)

あり得なくはないと思い、納得。

アラッドにとって貴族の令息や令嬢が参加するパーティーや、お茶会に参加するのも同じく緊張する。
だが、そんな状況でもアラッドは意外と堂々と立ち回ることが出来ていた。

(いや、パーティーに関しては家のあれこれを全部ドラングに押し付けて、ただただ美味い料理を食べてただけだったが……まぁ、有難い耐性が付いたと喜ぼう)

本来であれば緊張でガチガチに固まってしまう場面でも、堂々と発言することが出来る。
これはアラッドにとって喜ばしい耐性だった。

その事について表情にこそ出していないが喜んでいると、鉱石や宝石系の品が次々に出品されていく。

ミスリル鉱石を競り落としてからしばらく動かなかったアラッドだが、珍しい鉱石が出品された途端に目がマジモード。

舞台の上に登場した品はローズオレッド。
宝石と変わらない美しさを持つが、武器やマジックアイテムの素材として使える立派で……珍しい鉱石。

珍しいという点だけで考えると、その希少性はミスリル鉱石よりも上。

あっという間に先程アラッドがミスリル鉱石を競り落とした金貨七十枚という額を追い越し、百枚……つまり、白金貨一枚まで競り上がった。

(……やはり欲しいな)

希少な鉱石であるということは知っている。
この機会を逃せば、中々手に入らないかもしれない。

というわけで、勿論ローズオレッドを競り落としにいく。

「百十枚!!!」

ここであっさりと白金貨一枚を超える値段を宣言し、再びアラッドに視線が集まる。
だが、先程とは状況が違い、ローズオレッドを手に入れる為であればもっと金を使っても良いという猛者がいた。
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