上 下
146 / 1,032

百四十六話 経験がないので恥ずかしい

しおりを挟む
アラッドは変声の効果付き仮面を手に入れる為に、その材料を錬金術の師であるソルバースに制作を頼んだ。

勿論、ソルバースがアラッドからの頼みを断る訳が無く、
直ぐに制作に取り掛かる。

(しかし何故アラッド様は俺にわざわざマジックアイテムの仮面を…………いや、余計な詮索をするのはよそう)

きっと何か事情があるのだろうと思い、無心で仮面の制作を行う。
そして数日後にはアラッドの元にソルバース作の仮面が届けられた。

「……どうだ」

「ッ!! 声は……しっかりと、変わっています」

「そうか、それを聞いて安心しました。ところで、見た目はおかしくありませんでしたか?」

「はい! 特におかしいところはありませんでした」

オークションに仮面を付けて正体を隠して参加する者は決して珍しくない。
加えて、ソルバースのセンスは中々悪くなく、仮面を付けても他者から笑われることはない。

(おかしくないか……そもそもこういった仮面を付ける機会がないから、付けた時の外見が少し不安だったが問題はなさそうだな)

前世では当たり前だが、顔に仮面を付けたことなどなかった。
子供の頃に戦隊ものやライダー系の仮面であれば付けたことはあるが、そういった物と比べて見に付けるのには段違いの恥ずかしさがある。

「ところで、アラッド様はいったいどんな商品をお買いになるのですか?」

「やっぱり気になりますか?」

「えぇ、それは勿論気になります」

メイドの問いに対して、この前も同じ質問をされたことを思い出した。

「アラッド様は基本的に無欲な方ですからね。そんなアラッド様がオークションに参加するとなれば、やはりどんな商品を競り落とすのか気になってしまいますよ」

「無欲ですか? いきなり父さんにモンスターと戦う許可が欲しいと言ったこともあるので、無欲ではないと思いますけど」

「え、えっと……そ、それとこれとはまた話が別かと思います」

アラッドがフールにモンスターと戦う許可が欲しいと伝えたのは、確かに大きな頼み事……欲かもしれない。
だが、それ以降は殆ど何かが欲しいと頼むことはなくなった。

毎日鍛錬を積むか、モンスターと戦うために森へ向かうか錬金術の鍛錬を行う。
そういった生活サイクルを送っていることはメイドたちも当然知っている。

フールの子供たちは皆自己鍛錬を怠らないが、その中でも従者たちから見てアラッドは一つ抜き出ている。

「そうですか……まぁ、それなりにお金を使うつもりではあります。何を買うかは、その時になってみないと分かりませんけどね」

「……アラッド様のおっしゃる通り、その時になってみないと決定出来ないかもしれませんね。アラッド様が何をお買いになるのか、今から楽しみです」

嘘ではなく、本心。
パーシブル家に仕える従者たちにとって、アラッドは謎多き人物。

故に、何に大金を使うのか気にならない訳がない。

(楽しみにしてくれてるところ悪いが、もしかしたら鉱石だけ競り落として終わりってパターンもあるからな)

アラッドの性格を考えれば、そうなってしまう場合も十分あり得る。
しかしオークションはまだ二か月先。

それまでは今まで通りの生活サイクルを送りながら、オークションが開催される日を待つ……だったが、オークションが開催される十日前に一通の手紙がアラッド宛てに送られてきた。

「アラッド様、お時間宜しいでしょうか」

「良いですよ。入ってください」

日課のポーション造りを行っていたが、丁度切りの良いタイミングだったので作業の手を止めた。

「こちら、アラッド様宛てのお手紙でございます」

「俺宛ての、手紙???」

手紙でやり取り行うほど親しい者はいない。
と思ったアラッドだが、別段親しくない者にも手紙を送ることはある。

「えっと、いったい誰から出すか」

「イグリシア侯爵家のご令嬢である、レイ様からです」

「……なるほど、分かりました」

一目で嫌そうというのが分かる表情で手紙を従者から受け取り、早速封を開いて手紙を読み始めた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

役立たず王子のおいしい経営術~幸せレシピでもふもふ国家再建します!!~

延野 正行
ファンタジー
第七王子ルヴィンは王族で唯一7つのギフトを授かりながら、謙虚に過ごしていた。 ある時、国王の代わりに受けた呪いによって【料理】のギフトしか使えなくなる。 人心は離れ、国王からも見限られたルヴィンの前に現れたのは、獣人国の女王だった。 「君は今日から女王陛下《ボク》の料理番だ」 温かく迎えられるルヴィンだったが、獣人国は軍事力こそ最強でも、周辺国からは馬鹿にされるほど未開の国だった。 しかし【料理】のギフトを極めたルヴィンは、能力を使い『農業のレシピ』『牧畜のレシピ』『おもてなしのレシピ』を生み出し、獣人国を一流の国へと導いていく。 「僕には見えます。この国が大陸一の国になっていくレシピが!」 これは獣人国のちいさな料理番が、地元食材を使った料理をふるい、もふもふ女王を支え、大国へと成長させていく物語である。 旧タイトル 「役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~」

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...