上 下
129 / 992

百二十九話 意外と早く気付いた

しおりを挟む
(はぁ~~~~~、まさかお茶会に来て誰かと戦うことになるとは……まぁ、きっちり勝負を着ける必要はないんだろうけどさ)

庭の中でも開けた場所に移動し、アラッドの我前には動きやすい格好に着替えたレイが軽く体を動かしていた。

(……最近のあいつとは模擬戦してないから正確には分からないけど、多分……ドラングより強そうだな)

アラッドの感覚は正しく、実際にレイとドラングが模擬戦を行ったことはないが、それでも戦闘に関してベテランと呼べる者たちの客観的な意見では……九割ほどレイの勝利が確定していると断言する。

「アラッド、君はレイのように体を動かさなくても良いのかい?」

「えっ? あぁ……そうだな、一応動かしておくか」

アラッドの傍にはベルが立っており、これからレイと模擬戦を行うにも拘らず、先程までと雰囲気が変わらないアラッドに少なからず困惑していた。

(あまり社交界には出ない……ということは、レイの強さについて知らないのかな)

レイは他の令嬢と比べて……いや、令息と比べても特別呼べる存在。
そんな存在を目の前にしても、アラッドの雰囲気は変わらない……どころか、普段ベルに稽古を付けている騎士たちと表情などが似ている。

「アラッド、あまりレイを嘗めない方が良いよ」

「あぁ、それは分かってる。まだ手合わせしてないけど、多分ドラングよりは強いだろ」

(ッ! なるほど。強いというのは解ってるようだね)

アラッドが決してレイを嘗めてはいない。
それは分かったが、それでも何故レイがここまで冷静で……達観した表情を浮かべられるのかが分からなかった。

(もしかして……本当に、あの噂は事実だったのかな)

少し前に流れてきた噂……一人の令息が新人女性騎士と一対一で模擬戦を行い、勝利した。

この噂はベルだけではなく、今回のお茶会に呼ばれた子供たち全員の耳に入っている。
だが、誰一人としてこの話を完全には信用していなかった。

ベルは以前、家に仕える騎士に尋ねた。
才能がある子供が新人の騎士に敵うのかと。

返ってきた言葉は不可能という内容だった。
ベルも返ってきた言葉が間違っているとも思えない。

「お二人とも、準備はよろしいでしょうか」

「あぁ、問題無い」

「えぇ、大丈夫ですよ」

審判は戦闘もバリバリ行える初老の執事が務める。
ちなみに、二人が持つ武器は木剣。

貴族の子供たちが行う模擬戦でよっぽどな理由がない限り、真剣を使わせる訳にはいかない。

だが、木剣でも十分に大怪我する可能性はある。
アラッドは過去に木剣……ではなく、拳でアラッドの骨に罅を入れたことがあった。

(さて、どうやって攻めようか)

とりあえず正眼に構えたアラッドはどうやって攻めるか考え始めた。
ところが、ここでレイがアラッドにとって思わず驚きが表情に出てしまう言葉を発した。

「アラッド、先に打ち込んできて欲しい」

「ッ!!?? 随分と自信があるんだな」

「防御に限って、という訳ではないがな」

離れた場所で観戦しているヴェーラたちの方にチラッと目を向けたが、誰一人驚きや馬鹿にする様な表情をしていない。

(誰も表情が変わっていないってことは……あれがレイ嬢の平常運転ということか)

丁度攻め方を考えていたところなので、お言葉に甘えることにした。

「それでは、こちらから行かせてもらおうか」

勿論、強化系のスキルは一切使わない。
脚力もレイの表情を確認して徐々に上げていく。

そして木剣で斬りかかり、その一撃に反応したレイは余裕の表情で受け止めた。
そこからもう一度斬りかかる……のではなく、押し込もうとした。

だが、そこで異変に気付いた。

(これは…………なるほど、多分そういうことか)

これぐらい力を入れれば押し切れるだろう。
そう思って力を込めたが、それでもレイは表情を崩さずに耐える。

レイがスキルを使っていない。
それはアラッドも分かっているからこそ、直ぐにその原因を考え……意外と早い段階でその理由が判明した。

(そういうことなら、もっと力を強めても良さそうだな!)

表情が好戦的な笑みに変わると同時に木剣に込める力が強まり、徐々にレイの表情に変化が訪れた。

少々長いつばぜり合いが続き、遂にレイがアラッドとのつばぜり合いに耐え切れず、後方に下がった。
この事実に観戦しているベルたちは声を上げて驚いた。

「アラッド、あなたは……」

「レイ、本当に強いな。だから……少し、この模擬戦を楽しませてもらう」

先程の好戦的な笑みを違い、素の嬉しさがアラッドの表情に現れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...