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百二十八話 開始早々……

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全員が集まったタイミングでお茶会がスタート。

全員、自身の名前は伝えたが、趣味などに関しては話していないので軽い自己紹介から始まった。

ただ……アラッド以外のメンバーは社交界で知り合っており、各々の趣味は把握していた。

「趣味は鍛錬と錬金術だ。屋敷の外に出て過ごす日が多い」

屋敷の外に出て何をしているかは言わない。

(錬金術を……もしや、意外と知的な方なのかしら?)

シュテイン侯爵の娘であるマリアはアラッドが錬金術を趣味としていると知り、なんとか顔には出さなかったが意外な趣味だと感じた。

それはマリア以外も同じく、あまり表情が揺らぐことがないヴェーラも同じような感想を抱いた。
そんな中でフィールド侯爵の息子であるルーフは自分と同じような趣味を持つ令息がいると知り、母性をくすぐる様な笑みを浮かべた。

そして全員の軽い自己紹介が終わったタイミングで、ここからは紅茶を飲み、お菓子を食べながら楽しい会話を行うのが一般的な流れなのだが……その流れをイグリシアス侯爵の娘であるレイがバッサリと切り裂いた。

「失礼、私はまどろっこしいやり方が苦手ゆえに、真正面から言わせてもらう。アラッドよ、是非あなたの力を見せてもらいたい」

「ッ!!!!」

容器を口に付ける一歩手前でアラッドは固まった。

(……えっ!? どういうことだ。今日は……あれだろ、あらら、うふふと話し合うお茶会じゃないのか?)

本日は特に体を動かすことはないだろうと思っていたアラッドにとって、とんでもない威力のストレートが真正面から飛んできた。

なんとも非常識な頼み。
見た目だけで言えば非常識側に思われるであろうワード辺境伯の息子、ガルシアも「こいつマジかよ」といった驚き顔になるが、直ぐに興味深そうな表情へと変わった。

(面白いな……気になるぜ)

ガルシアはアラッドの弟であるドラングと面識があり、兄であるアラッドは別に大したことはない。
いずれ自分が父親を超える為の踏み台と宣言していた。

だが、弟から踏み台と言われていたアラッドが女性騎士と一対一で戦い、勝ったという噂が流れ始めた。

弟が社交界で話している内容と、突然現れた噂とフールの自慢話……いったいどちらの内容が本当なのか。

気弱な性格のルーフだけがオロオロしており、いかに美人お嬢様であるミューラー侯爵の娘であるエリサも噂の真実は気になるところであり、レイの非常識な頼みを諫めようとはしない。

ただ、護衛として近くに立っている騎士たちはルーフと同じく、今まで自分たちの中で前例がない事態にどう対処すれば良いのか戸惑っていた。

(これは……断るのは、止めておいた方が良さそうだな)

お茶会に参加しているメンバーの中で、否定しそうなのはルーフのみ。
ルーフ以外のメンバー全員がアラッドの力を気になっている。

(ここで断れば、父さんの面子を潰すことになるかもしれないしな)

冒険者になるまで数度は社交界に参加しようと決めているアラドだが、貴族の世界に身を置くつもりはなし。
しかし父親であるフールはまだまだ貴族の世界で生き続ける。

ここでレイからの頼みを断れば、迷惑を掛ける結果になるかもしれない。

「ふぅーー……分かった。俺の力を見せよう。だが、いったいどの様な形式で力を見せれば良い?」

「簡単な形式だ。私と模擬戦だ」

「ッ!!??」

自身の力の一端を見せることには納得した。
だが、力を見せる形式としてレイと模擬戦を行うのは完全に想定外。

そう……アラッドにとっては想定外なのだが、ルーフも含めてその内容に納得した表情を浮かべていた。

(なんで皆そんな納得した表情を浮かべてるんだ? もしかして……ちょっとやんちゃな令嬢、なのか?)

やんちゃという言葉は似合わないが、武闘派の令嬢であるのは事実。
そして……実際に戦ってはいないが、その戦力はドラングを越えている。

「……分かった。それでは、少し場所を移そう」

「あぁ、そうだな。それと、この格好では少し動きづらいから着替えてくる」

こうしてお茶会開始早々場所を移動することになり、アラッドは淹れられた紅茶が勿体ないと思い、少々熱いのを我慢して飲み干してから体を動かせる場所へと移った。
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