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百二十六話 高まる緊張感

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「はぁ~~~~~……似合ってるか、これ?」

「えぇ、とてもお似合いかと」

グスタフ公爵領に着いた翌日の朝、朝食を食べ終えたアラッドは正装に着替えていた。

(何度も思うが……せいぜい馬子にも衣裳というのが妥当な評価だな)

騎士たちは本気でアラッドの正装姿が似合っていると思っているが、当の本人は全くもって似合っていると思っていない。

(ちょっと悪人顔だし……ヤ〇ザかギャ〇グのちびっ子って見た目だ)

確かにアラッドの容姿は少々怖さが入っているが、それでも貴族特有の高貴さもある。
だが、本人は意外とそういうことに気付かない。

「アラッド、準備は良いかい」

「はい、大丈夫です」

いっそのこと、普段通りの服装が一番に合っているのではないかと思ったが、さすがにお茶会にそのような服装で出席する訳にはいかない。

とても親しい者と個人的に開催するお茶会であれば、一応セーフ。
しかし今回のお茶会は有名どころの令息、令嬢が参加するお茶会……という名の、合コン……もしくはお見合いパーティーに近い。

そんな場に、普段通りの格好で参加する訳にはいかないのだ。

(今回、ヴェーラ嬢の他にも三人の令嬢が参加するんだよな……あまり険悪な仲にならず、何事もなく終わらせられるのが良いんだが……その為には、一緒に参加する令息たちもまともな人物であってほしいな)

アラッドの他にも三人の令息がお茶会に参加するが、三人ともアラッドの噂自体は耳に入っている。
だが、現時点で今回のお茶会がどういった理由で開かれた者なのかは知らされていない。

(今日知り合う奴らは俺が冒険者になればもう関わることはないと思うが……それでも不仲にならないようにしないとな)

父であり、当主のフールに迷惑を掛けたくないという思いは当然ある。
それに加えて、フールは冒険者になる十五歳までそれなりにパーティーに出席しようとは思っている。

先日のパーティーでは殆どシェフが作った料理を食べて過ごしたが、あまり何度もそういった奇行を取り続けてはならない。
それはアラッドも自覚しているので、次からは多少なりとも同じ令息や令嬢と会話しようと考えている。

その為にも、今日のお茶会で令息や令嬢たちと険悪な仲になりたくない。

緊張感を胸に抱きながら場所に揺られ、十数分程度でグスタフ公爵家の屋敷に到着。

(大きいのは分かってたけど……あれだな、城とは言わないけど城の一歩手前ぐらいの大きさはあるな)

改めて公爵家の屋敷の大きさにアラッドは圧倒される。
パーシブル家の屋敷も決して小さくはないが、グスタフ公爵家の屋敷に比べればやや劣る。

だが……アラッドが実費で屋敷を改良しようとすれば、その差は逆転する可能性は十分にある。

「お待ちしておりました、フール様。アラッド様。お茶会の場所までご案内させていただきます」

初老の執事がアラッドたちをお茶会が開催される場所へと案内する。

その間、アラッドの心臓のリズムは徐々に早くなっていた。

(クソ、胸に手を当てなくても心臓のリズムが早くなってるのが分かる。本当に……モンスターと戦うよりも緊張するな)

Cランクのモンスター二体を同時に相手する方が、よっぽど良い。
なんてアホなことを考えているが、アラッドにとっては大真面目な心境。

屋敷の中ですれ違う人たちはアラッドとフールにすれ違うと、全員が軽く一礼する。
そんな光景見て、アラッドの緊張感は更に高まってしまう。

パーシブル家に仕える者たちとは執事、メイド、兵士、騎士、シェフ、庭師等々、全員と良好な関係をつくれていることもあり、関係無い者に頭を下げられる。
こんな光景でさえ、社交界ベイビーのアラッドには慣れないプレッシャーを与える。

(冒険者になるまで、何回かはパーティーに参加するんだ。こういうのにも慣れないとな)

「あちらが本日お茶会が行われる場所となります」

初老の執事が紹介した場所には、既に二人の令嬢と一人の令息が椅子に座っていた。
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