スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai

文字の大きさ
上 下
125 / 1,043

百二十五話 それよりも怖い

しおりを挟む
街での散策が終わり、夕食の時間。
フールは息子の表情が普段と違うことに気が付いた。

「アラッド、何か悩みごとでもあるのかい?」

「いや、別にそんなことはないですけど……強いて言えば、街を散策している最中にグスタフ公爵家のヴェーラ嬢と会い、少し話しました」

フールに何かを隠そうとしても無駄だと思い、今日起こったことを素直に話した。

「なるほど、そういうことか。ヴェーラ嬢とは初めて会ったと思うけど、どうだった」

「どうと言われても……そういえば、ヴェーラ嬢からあなたは魔法使いかと尋ねられました」

「ほぅ、それは面白いね」

聞きたかった答えではなかったが、それでも興味深い内容が出てきた。

「ヴェーラ嬢は、アラッドが魔法専門の戦闘スタイルだと思った、ということだね」

「そういうことです。魔法使いではなく、どちらかといえば剣士だと返しましたけど」

アラッドは個人的に自分は剣士タイプだと認識しているが、フールはヴェーラの気持ちや考えが分からなくもなかった。

(ヴェーラ嬢は魔力操作の才を授かり、魔力感知も優れている。そして当然、魔法を扱う腕も一級品と聞くが……もしかしたら、アラッドが自分と同類の人間かもしれないと感じたのか……その可能性はありそうだね)

フールも自分がそれなりに魔法を使える方だと認識しているが、アラッドには敵わないと思っている。

(現時点だけであれば、アラッドは同世代の中でも抜き出ているだろうね……ただ、将来的に魔法の腕に関してはヴェーラ嬢が追い抜いてしまうだろう)

グスタフ公爵家が魔法に優れた血筋だということもあり、いずれはヴェーラに魔法スキルの練度などに関しては抜かれる。
この認識はアラッドとフールも同じだった。

(まぁ……アラッドは才能だけでいえば、剣士や魔法使いタイプではなく暗殺者タイプだけどね)

戦闘者という観点から見れば、アラッドは現時点で三つの顔を持っている。

「ふふ、ヴェーラ嬢が勘違いしてしまうのも仕方ないね。それで、アラッドの目にはどう映ったかな」

「えっと…………口数が少なく大人しく、綺麗な方かと」

綺麗と言っても、一口に様々な綺麗がある。
その中でも、アラッドから見てヴェーラは人形のような美しさを持つ令嬢だった。

「ふむふむ、第一印象は良かったんだね」

「そう、ですね……悪くはなかったと思います」

決して嘘ではない。
少なくとも、面倒な人物とは感じなかった。

お互いの第一印象は悪くないという事実を知ったフールだが、二人がくっつく可能性はあまり高くないと予想している。

(初対面の流れ、雰囲気は悪くなかったようだけど……記憶が正しく、アラッドの言葉を聞く限りあまり話が盛り上がるタイプではない……アラッドはそれなりにお喋りが好きだし、ちょっと厳しいかな?)

フールの貴族的立場からすれば、アラッドが公爵家の令嬢であるヴェーラとくっつくのは嬉しい。
だが、今回のお茶会には他にも三人の令嬢が参加する。

(アラッドの好みとしては……やはりイグリシアス侯爵家のご令嬢が合っているかな)

明日のお茶会が始まってみないと分からないが、それでもフールの中ではイグリシアス侯爵家のご令嬢がアラッドと一番仲良くなる可能性があると予想。

「明日のお茶会にはヴェーラ嬢以外にも三人のご令嬢が参加する訳だけど……どうだい、緊張しているかな」

「そうですね……モンスターと戦うよりも緊張しているかと」

アラッドの言葉が耳に入った護衛の騎士たちは小さく笑ってしまった。
同じくフールもアラッドの答えを聞いて不意を突かれたが、それはそれでアラッドらしいと感じた。

「なるほど。あまりパーティーに参加しないアラッドにとっては、未知のモンスターと戦うといったところか」

「……そ、そうですね。まさにそのような状況かと」

本気で緊張している事もあり、アラッドはフールの言葉を一ミリも否定しなかった。
しおりを挟む
感想 466

あなたにおすすめの小説

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。

もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです! そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、 精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です! 更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります! 主人公の種族が変わったもしります。 他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。 面白さや文章の良さに等について気になる方は 第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

処理中です...