上 下
123 / 1,012

百二十三話 揺らいだ表情

しおりを挟む
「……それは、本当?」

ヴェーラ・グスタフの表情が揺らいだ。
それを見た護衛の騎士たちは驚いた。

ヴェーラは口数が少なく、基本的に無表情。
そんなヴェーラがアラッドからの答えに対し、疑問を抱き、それが感情に現れた。

(ヴェーラ様が表情に出すほど驚くとは……しかし、おそらくアラッド様の答えは間違っていないだろう)

アラッドが少し前のパーティーに出席した際、途中で母のアリサと一緒に抜け出して第三王女の護衛騎士であるモーナと模擬戦を行い、勝利したという噂がある。

そして剣を扱う騎士であるギルッドから視ても、アラッドは剣を扱うタイプに思える。
しかしヴェーラ五歳の誕生日に魔力操作のスキルを授かった。

魔法の扱いにはグスタフ公爵家に仕える魔法使いたちも驚かされている。
ヴェーラは魔力の感知技術も優れており、ほぼ百パーセントの確信を持ってアラッドに「あなたは魔法使いですか?」と尋ねた。

だが、返ってきた答えは魔法使いではなく剣士。

その答えが間違っていないと思いつつも、ヴェーラの考えや直感を信じるのならば、アラッドには剣の才能だけではなく、ヴェーラが勘違いしてしまほう程の魔法の才も有していることになる。

「えぇ、本当です。毎日欠かさず剣の稽古を行っています」

一応まだ相手の親の爵位が分からない為、敬語で対応する。
そこでギルッドは送れながらもヴェーラの紹介を始めた。

「努力を怠らぬ姿勢、流石でございます。アラッド様、こちらはグスタフ公爵家の令嬢であるヴェーラ様でございます」

「そうでしたか。わざわざ今回のお茶会の場を用意して頂き、誠にありがとうございます」

相手が公爵家の娘だと分かり、敬語を使った自分にナイスと思いながら心の中でホッと一息ついた。

ただ、そんなアラッドをよそにヴェーラの護衛である三人の騎士は、アラッドのスラスラと口に出す言葉に少々驚いていた。

(強さだけではなく、対応まで一流とは……フール様はいったいどのような教育をされているのだろうか……少々気になるな)

パーシブル侯爵家の当主であるフールは特に教育はしていない。
アラッドが勝手に強くなってしまっただけである。

「……どういたしまして」

アラッドの言葉に対して、感謝されるのは自分ではなく父であるグスタフ公爵というのは分かっているが、礼を言われたので一応娘である自分が答えなければと思い、対応。

しかし今のヴェーラにとってそんなやり取りはどうでもよく、先程の回答が気になり続けていた。

(この子は、本当に……剣士なの?)

鑑定系のスキルや魔眼を持っていないので、ラッドがどのようなスキルを習得しているのかは分からない。
だが、それでもアラッドが体に秘める魔力の量はなんとなく感じ取れる。

それはがっつり魔法使いである自分より勝っていた。

(これだけの魔力量を纏っていて……剣士)

グスタフ家に当然、魔法使いだけではなく騎士の称号を持つ者たちも仕えている。
確かに目の前の令息は鋭い雰囲気を持ち、剣が得意というタイプに思えなくもない。

しかしヴェーラにはアラッドが剣士タイプではなく、魔法使い寄りの者だと直感が告げていた。

「……ギルッド。アラッドは、本当に剣士寄りなの?」

「えっと……噂ですが、アラッド様は新人女性騎士の者と模擬戦を行い、勝利したようです。その話を考えるに、やはりアラッド様は剣士寄りの方かと」

いったいその噂は本当なのか、ギルッドには分からない。
だが、相手の女性騎士がハンデ付きであればアラッドが勝利する可能性は決してゼロではないと感じる。

「あの模擬戦はお互いに全力を出していませんでした。それにモーナさんも自分がまだまだ子供だということで油断していましたから」

内容を考えるに、確かに相手の女性騎士は全力ではないのだろう。
だがそれでも、勝利したという部分は否定しなかった。

(ッ!!! あの噂は本当だったのか……末恐ろしい令息もいたものだ)

アラッドの表情を見る限り、とても嘘を言っているようには思えなかった。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...