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百二十二話 数年後かな
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「アラッド様、あまりお気に召した物はないのですか?」
「別にそういう訳じゃないんだが……今買うべきではないと思ってな」
武器や防具を見るのは楽しい。
だが、アラッドはあまり自身の武器や防具を買おうとしない。
現在はナックル、オープンフィンガーグローブなどは購入を検討しているが、メインウェポンである鋼鉄の剛剣は今でも十分使えるので、新しい武器が早急に必要だとは思わない。
「今の俺には父さんから貰った鋼鉄の剛剣があるからな……新しい武器、剣を買うにしても数年後かな」
「……そうですか」
護衛の騎士たちはアラッドが父親であるフールから貰った鋼鉄の剛剣を大切に扱いたいという気持ちは理解出来る。
自身もそのような過去がある。
だが、物はいつか壊れてしまう。
再生や自己修復の効果などが付与されていれば話は別だが、その様な効果が付与されていない武器はどれだけ丁寧に扱っていたとしても、使用不可能となる日は訪れてしまう。
(アラッド様の剣は今だ十分に扱える……それだけアラッド様の技術が高いということだな。いや、そもそも剣以外でモンスターを倒すこともあるらしいな)
五歳の誕生日に授かったスキル、糸。
そして魔法の腕も並ではない。
その二つを腐らせない為にも、実戦で扱っているので鋼鉄の剛剣の出番が少ない日もある。
(アラッド様の腕前であれば、もっと相応しい剣があると思うが……本人が特に変える気がないのであれば、私たちから言う意味はないか)
鋼鉄の剛剣もそれなりに質の高い剣ではあるが、騎士たちはもっとアラッドに相応しい剣があると、護衛の三人は同じ事を考えていた。
ただ、鋼鉄の剛剣も七歳の子供が持つには過ぎた一品なのだ。
それ以上の武器を持たせるのは……例え剣の才能を持つ子供であったとしても、現段階では宝の持ち腐れになってしまう。
「ん? ギルッド……か?」
「その声は! ザックじゃないか」
すれ違った人物に見覚えがあり、護衛の一人であるザックは思わず振り返り、声を出してしまった。
(……向こうの騎士も、ザックと同じ護衛の騎士って感じか)
ギルッドを含めて二人の騎士の傍に、一人の令嬢が立っていた。
(あんまりパーティーに参加してないが、なんとなく解る。多分、爵位が高い貴族の令嬢だ)
ギルッドがアラッドたちの方向に振り替えると、令嬢も一緒に振り返った。
体から溢れる高貴さを感じ、もしかしたら令嬢の父親は自分と同じぐらいの爵位を持つ人物かもしれない。
そう思うと、自然と背筋が伸びた。
「アラッド様、こちらの騎士は自分と同期の騎士です。ギルッド、こちらはパーシブル家の三男であるアラッド様だ」
「初めまして、アラッド様。ギルッド・バルボと申します。ザックに紹介していただいた通り、彼とは同期の騎士です。以後お見知りおきを」
ザックと同期であるギルッドは深々と頭を下げた。
現在は騎士ではあるが、それでも貴族の一員。
アラッドの噂は耳に入っていた。
とはいっても、アラッドが何かやらかした話ではなく、父親のフールがパーティーで自慢していた噂話。
中には「本当にそんなことが出来る子供がいるのか?」と思う内容もあるが、ギルッドは目の前の生アラッドを見て、本当にただの令息ではないことを察した。
そしてギルッドは自身が護衛をしている令嬢のことを軽く紹介しようとしたが、その前に令嬢が一歩前に出てアラッドの間に現れた。
「…………」
アラッドはいきなり目の前にやって来た令嬢に対し、どう対応すれば良いのか困惑し、上手く言葉が出なかった。
だが、アラッドが何かを話すよりも先に令嬢が言葉を発した。
「あなたは、魔法使い?」
「えっ? いや……個人的には剣士だと、思ってます」
目の前の令嬢がどの家の者かは分からないが、それでもとりあえず敬語で返した。
「別にそういう訳じゃないんだが……今買うべきではないと思ってな」
武器や防具を見るのは楽しい。
だが、アラッドはあまり自身の武器や防具を買おうとしない。
現在はナックル、オープンフィンガーグローブなどは購入を検討しているが、メインウェポンである鋼鉄の剛剣は今でも十分使えるので、新しい武器が早急に必要だとは思わない。
「今の俺には父さんから貰った鋼鉄の剛剣があるからな……新しい武器、剣を買うにしても数年後かな」
「……そうですか」
護衛の騎士たちはアラッドが父親であるフールから貰った鋼鉄の剛剣を大切に扱いたいという気持ちは理解出来る。
自身もそのような過去がある。
だが、物はいつか壊れてしまう。
再生や自己修復の効果などが付与されていれば話は別だが、その様な効果が付与されていない武器はどれだけ丁寧に扱っていたとしても、使用不可能となる日は訪れてしまう。
(アラッド様の剣は今だ十分に扱える……それだけアラッド様の技術が高いということだな。いや、そもそも剣以外でモンスターを倒すこともあるらしいな)
五歳の誕生日に授かったスキル、糸。
そして魔法の腕も並ではない。
その二つを腐らせない為にも、実戦で扱っているので鋼鉄の剛剣の出番が少ない日もある。
(アラッド様の腕前であれば、もっと相応しい剣があると思うが……本人が特に変える気がないのであれば、私たちから言う意味はないか)
鋼鉄の剛剣もそれなりに質の高い剣ではあるが、騎士たちはもっとアラッドに相応しい剣があると、護衛の三人は同じ事を考えていた。
ただ、鋼鉄の剛剣も七歳の子供が持つには過ぎた一品なのだ。
それ以上の武器を持たせるのは……例え剣の才能を持つ子供であったとしても、現段階では宝の持ち腐れになってしまう。
「ん? ギルッド……か?」
「その声は! ザックじゃないか」
すれ違った人物に見覚えがあり、護衛の一人であるザックは思わず振り返り、声を出してしまった。
(……向こうの騎士も、ザックと同じ護衛の騎士って感じか)
ギルッドを含めて二人の騎士の傍に、一人の令嬢が立っていた。
(あんまりパーティーに参加してないが、なんとなく解る。多分、爵位が高い貴族の令嬢だ)
ギルッドがアラッドたちの方向に振り替えると、令嬢も一緒に振り返った。
体から溢れる高貴さを感じ、もしかしたら令嬢の父親は自分と同じぐらいの爵位を持つ人物かもしれない。
そう思うと、自然と背筋が伸びた。
「アラッド様、こちらの騎士は自分と同期の騎士です。ギルッド、こちらはパーシブル家の三男であるアラッド様だ」
「初めまして、アラッド様。ギルッド・バルボと申します。ザックに紹介していただいた通り、彼とは同期の騎士です。以後お見知りおきを」
ザックと同期であるギルッドは深々と頭を下げた。
現在は騎士ではあるが、それでも貴族の一員。
アラッドの噂は耳に入っていた。
とはいっても、アラッドが何かやらかした話ではなく、父親のフールがパーティーで自慢していた噂話。
中には「本当にそんなことが出来る子供がいるのか?」と思う内容もあるが、ギルッドは目の前の生アラッドを見て、本当にただの令息ではないことを察した。
そしてギルッドは自身が護衛をしている令嬢のことを軽く紹介しようとしたが、その前に令嬢が一歩前に出てアラッドの間に現れた。
「…………」
アラッドはいきなり目の前にやって来た令嬢に対し、どう対応すれば良いのか困惑し、上手く言葉が出なかった。
だが、アラッドが何かを話すよりも先に令嬢が言葉を発した。
「あなたは、魔法使い?」
「えっ? いや……個人的には剣士だと、思ってます」
目の前の令嬢がどの家の者かは分からないが、それでもとりあえず敬語で返した。
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