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百六話 そんな未来は望まない
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「……アラッド様、本当にお優しいですね」
「? どうしてですか」
個人的には容赦なくドラングを倒しているので、そこまで優しくはない。
そう思っているが、外から見ている人間の反応は違った。
「普通は反発的な態度を取る兄弟を心配したりしませんよ」
「それは……そう、かもしれませんね」
一般的にはグラストの考えが正しい。
それはアラッドも解っている。
解ってはいるが……それでも、ドラングがアラッドの弟であることに変わりはなかった。
「けど、ドラングは一応……俺の弟ですからね。敵意を向けられるのはちょっと鬱陶しいと感じますけど、でも過剰に訓練を行うことに取りつかれていたら、やっぱり心配しますよ」
これが仮に、自分の言うことを聞く者たちを使って虐めようとしたり、もしくは命を狙う様な真似をするのであればさすがのアラッドも許そうとは思わない。
しかし、今のところドラングは道を踏み外してはいない。
アラッドに敵意を向けている。すれ違えば眉間にしわを寄せて睨む。
だが、それでも真っ当な努力で強くなろうとしている。
苦手だと感じる部分はあっても、心底嫌いになることはなかった。
(俺がクロを従魔にしたときも、クロを寄こせとは言わなかったしな。まぁ……その後の父さんにドラゴンの卵が欲しいと頼んだ一件は爆笑したけど)
何はともあれ、まだ軽蔑するような件は起こっていない。
心底嫌わない理由はそれだけで十分だった。
「そうですか。アラッド様は懐が深いですね……本気で嫌わないというその現状は、フール様にとっても嬉しいでしょう」
「……やっぱり、兄弟同士で殺し合いとかあるんですね」
グラストの顔から何を言いたいのか、アラッドは即座に感じ取った。
「っ! バレていましたか。現実問題として、後継者争いやそれ以外の理由で同じ家の者同士が争うことは珍しくありません。私としては、やはりそんなことが起こらないのが一番だと思っていますので」
仕えている家の子供たちが争い、血を流す。
従者として、これほど悲しいことはない。
(俺だってできれば、そんな事件は起きてほしくない。ドラングが変な気さえ起こさなければな)
今のところ、ドラングはアラッドという身近なライバル、標的を超える為に必死で訓練を重ねている。
周りの騎士や兵士たち……ニーナたちも心配するほどに、真剣な表情で己を鍛えている。
だが……どこかで道を踏み外してしまうかもしれない。
その可能性が決してゼロとは断言出来ない。
「俺も……そんなことは起きてほしくないですよ」
ドラングの母親であるニーナや、兄であるガルアとは良好な関係を築けている。
そんな二人を悲しませたくない。
それでも、己の身を守る為であれば……敵対するのはやむを得ない。
(現状であれば気絶させて縛り上げることは出来るだろうけど、そこで父さんがどういった決断を下すか……正直、俺のことなんて頭から切り離せよと思ってしまうな)
フールを……父を超える騎士になることだけを目標にすれば良い。
気持ち的には他人であるアラッドはそう思ってしまうが、ドラングにとっては簡単に片付けられる問題ではなかった。
「そういえばグラストさん。その、ドラングはオーアルドラゴンへの居場所に続く道のことは知ってるんですか?」
アラッドは周囲にグラスト以外の人がいないことを確認しながらも、小声で尋ねる。
「はい、今のところバレてはいないと思いますが……それがどうかしましたか?」
「忘れたんですか。ドラングが前に父さんに何を頼んだのか」
「……申し訳ありません、今思い出しました」
ドラングが父であるフールにモンスター繋がりで何を頼んだのか、正確に思い出したグラストは悩ましい顔を浮かべた。
「も、もしそんな道を知ったら……ヤバい、ですよね」
「えぇ、そうですね……あちらに向かう者たちにもう少し警戒しながら行くように伝えておきます」
最初の頃から事情を知っている者以外には話してはならないと決め、行動していたがドラングの奇行を起こさないようにする為には、今よりも警戒レベルを上げるべきだと判断した。
「? どうしてですか」
個人的には容赦なくドラングを倒しているので、そこまで優しくはない。
そう思っているが、外から見ている人間の反応は違った。
「普通は反発的な態度を取る兄弟を心配したりしませんよ」
「それは……そう、かもしれませんね」
一般的にはグラストの考えが正しい。
それはアラッドも解っている。
解ってはいるが……それでも、ドラングがアラッドの弟であることに変わりはなかった。
「けど、ドラングは一応……俺の弟ですからね。敵意を向けられるのはちょっと鬱陶しいと感じますけど、でも過剰に訓練を行うことに取りつかれていたら、やっぱり心配しますよ」
これが仮に、自分の言うことを聞く者たちを使って虐めようとしたり、もしくは命を狙う様な真似をするのであればさすがのアラッドも許そうとは思わない。
しかし、今のところドラングは道を踏み外してはいない。
アラッドに敵意を向けている。すれ違えば眉間にしわを寄せて睨む。
だが、それでも真っ当な努力で強くなろうとしている。
苦手だと感じる部分はあっても、心底嫌いになることはなかった。
(俺がクロを従魔にしたときも、クロを寄こせとは言わなかったしな。まぁ……その後の父さんにドラゴンの卵が欲しいと頼んだ一件は爆笑したけど)
何はともあれ、まだ軽蔑するような件は起こっていない。
心底嫌わない理由はそれだけで十分だった。
「そうですか。アラッド様は懐が深いですね……本気で嫌わないというその現状は、フール様にとっても嬉しいでしょう」
「……やっぱり、兄弟同士で殺し合いとかあるんですね」
グラストの顔から何を言いたいのか、アラッドは即座に感じ取った。
「っ! バレていましたか。現実問題として、後継者争いやそれ以外の理由で同じ家の者同士が争うことは珍しくありません。私としては、やはりそんなことが起こらないのが一番だと思っていますので」
仕えている家の子供たちが争い、血を流す。
従者として、これほど悲しいことはない。
(俺だってできれば、そんな事件は起きてほしくない。ドラングが変な気さえ起こさなければな)
今のところ、ドラングはアラッドという身近なライバル、標的を超える為に必死で訓練を重ねている。
周りの騎士や兵士たち……ニーナたちも心配するほどに、真剣な表情で己を鍛えている。
だが……どこかで道を踏み外してしまうかもしれない。
その可能性が決してゼロとは断言出来ない。
「俺も……そんなことは起きてほしくないですよ」
ドラングの母親であるニーナや、兄であるガルアとは良好な関係を築けている。
そんな二人を悲しませたくない。
それでも、己の身を守る為であれば……敵対するのはやむを得ない。
(現状であれば気絶させて縛り上げることは出来るだろうけど、そこで父さんがどういった決断を下すか……正直、俺のことなんて頭から切り離せよと思ってしまうな)
フールを……父を超える騎士になることだけを目標にすれば良い。
気持ち的には他人であるアラッドはそう思ってしまうが、ドラングにとっては簡単に片付けられる問題ではなかった。
「そういえばグラストさん。その、ドラングはオーアルドラゴンへの居場所に続く道のことは知ってるんですか?」
アラッドは周囲にグラスト以外の人がいないことを確認しながらも、小声で尋ねる。
「はい、今のところバレてはいないと思いますが……それがどうかしましたか?」
「忘れたんですか。ドラングが前に父さんに何を頼んだのか」
「……申し訳ありません、今思い出しました」
ドラングが父であるフールにモンスター繋がりで何を頼んだのか、正確に思い出したグラストは悩ましい顔を浮かべた。
「も、もしそんな道を知ったら……ヤバい、ですよね」
「えぇ、そうですね……あちらに向かう者たちにもう少し警戒しながら行くように伝えておきます」
最初の頃から事情を知っている者以外には話してはならないと決め、行動していたがドラングの奇行を起こさないようにする為には、今よりも警戒レベルを上げるべきだと判断した。
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