上 下
94 / 1,012

九十四話 何度も失敗

しおりを挟む
「ふぅ、こんな感じで良いかな」

オーアルドラゴンとの交渉に成功し、パーシブル家の屋敷からオーアルドラゴンの住処まで一本道の通路が開通されてからそれなりに月日が経ったが、未だにアラッドは鉱山内を探索できていない。

一応フールにクロと二人で探索しても良いかと尋ねたが、さすがに却下された。
その場にはアリサもいたが、息子の成長を嬉しく思うアリサでも流石に苦い表情になった。

二人とも本人にアラッドの強さは良く解かっていると伝えるが、それでもまだ早いと伝えられた。
だが、アラッドは多分却下されるだろうと分かっていたので、特に落ち込むことはなかった。

しかし鉱石の扱いに慣れたいと思い、冒険者ギルドに鉱石の採掘依頼はちょこちょこ頼んでいた。
勿論、依頼達成金額はアラッドの懐から出している。

そしてアラッドが普段通りの生活を送っている中、リバーシによる国内大会が行われた。
優勝賞金は白金貨十枚とアラッド自ら作ったトロフィーが送られた。

その大会に関してアラッドは殆ど関わっていない。
しかし大会は不正や裏での暗躍などが行われることなく、無事に終了した。

白金貨十枚というのは大貴族からすれば大した金額ではないかもしれないが、一般市民や貴族の子息や令嬢にとっては決して低くない。

この世で初めて生み出されたゲームということもあり、人生経験が長い大人の方が有利ということはない。
考える力は上かもしれないが、ある程度の場数を踏めばその差もなくなる。

事実、大会の優勝者は伯爵家の令息、歳は十七。
国内最大の大会初代優勝者が十七歳の令息に決まり、開催された王都はお祭り騒ぎ状態となった。

そしてリグラットを中心にリバーシを職業にしようという動きがあり、一度アラッドの元に尋ねてきた。
実はリバーシを職業にしたい……そんな願いを聞き、アラッドは少しも考える素振りをせずに承諾した。

恩を返すため、自分の懐を温めるため。
色々と理由はあったが、リバーシというボードゲームが職業になるのは嬉しく思った。

ただ、ここでリグラットに一つ条件を加えてほしいと頼んだ。

現在新しいボードゲームを制作している。
国王には国王だけの特別な物を用意しようと考えている。
その特別な物を贈呈する代わりに、これから行われる試合や大会で不正が発覚した場合。

もしくは協会の人間になるために裏で暗躍し、正規のルートを踏まずに地位を得た者は即座に罰して欲しいと頼んだ。
本音のところは即刻死刑でも良いのではと思ったが、さすがにやり過ぎかと思って言葉には出さなかった。
リグラットはアラッドが現在新しく制作しているボードゲームに興味を惹かれたが、一旦頭から切り離して絶対に国王に伝え、ルールを定めると宣言した。

そんな話し合いがあってから数か月後、アラッドはようやく新しいボードゲームを作り終えた。

「まぁ、こんなところだよな」

リバーシに続いて有名なボードゲーム、チェス。
これに関しては制作するのにかなり時間が掛かった。

何故なら、単純にリバーシと違って制作する駒が複雑だから。
幸いにもルールなどは覚えていたので、人に伝えるのは全く問題無い。

ただ、完璧な駒を作るには当初の予定より遥かに時間を必要になった。
途中で何度も作りかけの駒を破壊してしまうこともあった。

しかし完全に作り終えるのに予定より大幅な時間が掛かったのは、もう一つ理由がある。
それは国王に贈呈する特別な駒を用意するためだった。

チェスには特別な駒が存在する。
特別になればどう動くのか、そういった細かい内容は覚えていない。
しかし、そういった駒が存在するというのは覚えていたので、通常の駒を作り終えたアラッドはそちらの作業に没頭。

他の駒と差別化を図る為に細かく作りこもうとしたが、何度も何度も破壊してしまう。
一度同じ駒を作れたとしても、二度目は一瞬のミスで理想通りの駒にならない……なんてことが何度も起こった。

「これなら……十分国王様用の駒、って言えるよな」

アラッドの目の前には自信作と言える十六個の駒がボードの上に並べられていた。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...