上 下
82 / 1,023

八十二話 一回限りの切り札

しおりを挟む
「さて、大事な娘を助けてくれた恩人にただ礼をするだけではな……という訳でだ、アラッドよ。何か望み……もしくは欲しい物はあるか? 可能な限り応えよう」

礼を言うだけならば、誰でもできる。
可能限り望みを聞き、欲しい物を用意する。
なんとも王族らしく太っ腹な提案。

だが、それらを聞かれても直ぐに浮かばない。

(望みは……特にないな。俺が進む道は冒険者だから、騎士の試験を受ける際に公正な判断を下して欲しいとか、何歳になったら飛び級で受けさせてほしいとか全く思ってないからな)

ディーネが考えた通り、アラッドの実力ならば飛び級で試験を受けられる可能性は高い。
そこに国王からの言葉が加われば、この特例に口を出す者はいなくなる。

(欲しい物も今のところは特に、って感じだな……というか、欲しい物であれば多分自力で手に入れられる気がする)

傲慢に思われる考えかもしれないが、現在アラッドの懐に入っている金額を考えれば、よっぽど高価な物でなければ自分で買うことができる。

一個人が自由に使える資産であれば、そこら辺の貴族と同等……もう数年も経てば、完全に超える。

(欲しい物がない訳ではないが、今すぐに欲しいってわけじゃないから。鉱石に関しては鉱山が復活したからある程度取れるだろうし……うん、あまりないな)

しかし、ここで何も望みはないし欲しい物はないと言えば、それはそれで王族の面子を潰すことになる。
十秒ほど頭を悩ませた結果、これだ!! という内容を思い付く。

「それでは、私が厄介な問題に絡まれた時に一回だけ後ろ盾になってもらえますか」

「ふむ……なるほど。確かに価値がある内容だ。ただ、他にも望みや欲しいものなどはないのか? アラッドの実力であれば、特例をつくって騎士になるための試験を受けることも可能だ」

「そ、そうですか。し、しかしその……私は騎士の道ではなく、冒険者の道に進みますので」

「……そうか、そうだったな。フールもそのように話していたそうだが……まぁ、そこは私が口を出せる問題ではない」

この言葉を聞いて、アラッドは心の底からホッとした。

(はぁ~~~~、ほんっ……とうに良かった!!!! こういう時だけ権力を使ってくるような人じゃなくてマジで良かった)

もしかしたら強制的に騎士の道に進むように話を進められるのかと恐れていたが、そんなことはない。
権力を行使することもあるが、私的な理由で使うほどレックドロアは愚かではない。

「分かった。アラッドが厄介な問題に絡まれた時、一度だけ後ろ盾となり、力になろう」

「ありがとうございます!!」

「それはこちらのセリフだ、アラッドよ。そなたが第一にフィリアスを見つけ、保護してくれたからこそあの子は無傷で私たちの元に帰ってきてくれた。もう一度礼を言う、娘を保護してくれてありがとう」

「……当然のことをしたまでです」

アリサに言われた通り、オドオドせず堂々とした表情で返事を返す。
そんな娘の恩人である男の子の表情を見て、レックドロアはとても満足げな表情を浮かべた。

「最後の表情はとても良かったよ、アラッド」

「そうですか? 二人に言われた通り、あまり緊張感に圧し潰されないように意識して対応したんですけど」

「うん、ベストな対応だね。傲慢な態度は良くないけど、堂々とした態度は寧ろ好感を持たれたと思うよ。ところで、国王陛下から提案された礼の内容は本当にあれで良かったのかい?」

息子がどれほどの大金を得ているのか、だいたいは把握している。
なのであまり欲しい物がないのは解るが、もっと良い内容があったのではと思ってしまう。

だが、アラッドはあの内容で良かった。

「俺がこの先、面倒な人物と敵対するかもしれないじゃないですか。なら、そういった時に手を出してしまう前にこの国で絶対の権力を使って潰す……もしくは、完璧な許可を得て自分の手で潰す方が良い手札だなと思ったので」

「……ふふ、さすがフールの子ね」

過去にフールは厄介な存在と敵対したことがあり、直接己の手で叩き潰したことがある。
本人にとってはあまりほじくり返されたくない内容なので、思わず頬が赤くなった。
しおりを挟む
感想 465

あなたにおすすめの小説

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

おばあちゃん(28)は自由ですヨ

美緒
ファンタジー
異世界召喚されちゃったあたし、梅木里子(28)。 その場には王子らしき人も居たけれど、その他大勢と共にもう一人の召喚者ばかりに話し掛け、あたしの事は無視。 どうしろっていうのよ……とか考えていたら、あたしに気付いた王子らしき人は、あたしの事を鼻で笑い。 「おまけのババアは引っ込んでろ」 そんな暴言と共に足蹴にされ、あたしは切れた。 その途端、響く悲鳴。 突然、年寄りになった王子らしき人。 そして気付く。 あれ、あたし……おばあちゃんになってない!? ちょっと待ってよ! あたし、28歳だよ!? 魔法というものがあり、魔力が最も充実している年齢で老化が一時的に止まるという、謎な法則のある世界。 召喚の魔法陣に、『最も力――魔力――が充実している年齢の姿』で召喚されるという呪が込められていた事から、おばあちゃんな姿で召喚されてしまった。 普通の人間は、年を取ると力が弱くなるのに、里子は逆。年を重ねれば重ねるほど力が強大になっていくチートだった――けど、本人は知らず。 自分を召喚した国が酷かったものだからとっとと出て行き(迷惑料をしっかり頂く) 元の姿に戻る為、元の世界に帰る為。 外見・おばあちゃんな性格のよろしくない最強主人公が自由気ままに旅をする。 ※気分で書いているので、1話1話の長短がバラバラです。 ※基本的に主人公、性格よくないです。言葉遣いも余りよろしくないです。(これ重要) ※いつか恋愛もさせたいけど、主人公が「え? 熟女萌え? というか、ババ專!?」とか考えちゃうので進まない様な気もします。 ※こちらは、小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました

夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」  命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。  本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。  元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。  その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。  しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。 といった序盤ストーリーとなっております。 追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。 5月30日までは毎日2回更新を予定しています。 それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...