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八十一話 何度も言い聞かせる

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モーナとの模擬戦が終わり、パーティー会場に戻ってから少し経つと終了の時間を迎えた。

これで堅苦しい空間から解放される……そう思っていたが、モーナとの模擬戦を体験して気分が良くなっていたアラッドは一つ、大事なことを忘れていた。

先日何があったのか……そう、この国の第三王女であるフィリアスが迷子になっているところを助けた。
この一件に関して賢明な判断を取ったアラッドに対し、国王は感謝していた。

相手が当主ではなく令息であったとしても、自ら礼を言いたい。

というわけで、リーナとドラングは宿に帰ったが、フールとアリサ。
そしてアラッドは王城に残り、とある一室に案内された。

「と、父さん……これって、そういうことですよね」

「そういうことだね。でも大丈夫だよ、国王陛下からお礼の言葉ともしかしたら何か品を貰って終わりだ。心配する必要はないよ」

フールはとても落ち着いており、アリサもそこまで緊張していない。
だが、アラッドは迷子を一人助けただけでこんな事になるとは思っていなかったので、ガチガチに固まっていた。

「フールの言う通りよ、アラッド。何か問題を起こしたわけじゃないんだから、もっと堂々としてなさい」

「わ、分かりました」

深呼吸をし、気持ちを整える。
自分は悪いことはしていない。寧ろ良いことをした。
褒められることはあっても、怒られることはない。

何度も自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。

「ふぅーーーーー」

(よし、大丈夫だ)

緊張感がゼロになったわけではない。
だが、先程までよりは気持ちが幾分か楽になった。

アラッドの気持ちが整った数秒が、扉がノックされた音が聞こえた。

(来た!!!)

部屋で待機していたメイドがドアを開け、ノックした人物が部屋に入る。

「すまない、待たせたな」

入ってきた人物は……予想通り、この国の国王。
レックドラア・アルバース。
入ってきた瞬間、フールとアリサは即座にソファーから腰を上げて頭を下げる。

アラッドもワンテンポ遅れて二人と同じ動作を取るが、頭を下げていても王族特有の圧を感じる。

(ッ!!?? これが、国王が放つ雰囲気と圧……父さんと向き合った時とは違う圧力だ)

フールが放つ圧は鋭い針のような剣気。
それに対し、レックドロアが放つ圧は圧し潰す様な重厚感を感じさせる王圧。

「三人とも楽にしてくれ」

国王から許可を貰い、三人は顔を上げて腰を下ろす。

「……ふふ、流石はお前の息子だな。フール」

「えぇ、自慢の息子です」

「お前がそう言うのも頷ける。お前の自慢話を聞いていたのでつい試させてもらったが、まさか全く表情を変えないとはな」

(や、やっぱりワザとか。常時こんな圧を出してる訳ないよな……はぁ~~~、ちょっと寿命が縮んだかも)

ワザと圧を放って自分を試した。
その事に対して特に何かを言うつもりはなく、そもそも言える立場でもない。

「フールの息子、アラッドよ。いきならい試す様なことをして悪かった」

「い、いえ。父の自慢話が真実と認められたようで、こちらとしては光栄です」

「そう言ってくれると有難い。しかし……本当に子供離れした対応だ。しかも、先程一対一の模擬戦で騎士の一人に勝ったそうじゃないか」

モーナとの一戦は既にレックドロアの耳に入っていた。
しかしフールは二人からそんな話を聞いておらず、目が点になった。

「アラッド……僕、そんな話聞いてないんだけど。もしかしてさっき二人でパーティー会場から離れて行っていた場所は、訓練場だったのかい?」

「は、はい。美味しい料理はだいたい食べ終わって、お腹いっぱいになって暇だったので」

理由としては解らなくはない。
だが、その令息らしくない理由を聞いた国王は小さく笑った。

「はっはっは、本当に面白い子だな。さて、そろそろ本題に入ろう。アラッドよ、私の娘が迷子になっているところを保護してくれたこと、まことに感謝する」

「ど、どうも……その、偶々視界に入っただけなんで」

正直なところ、迷子を助けたというよりは大きな爆弾を拾ってしまった感覚だった。

「それでもフィリアスに声を掛けたのは紛れもない、君の優しだ。有難う」

レックドロアはもう一度感謝の意を込め、礼の言葉を伝えた。
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