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六十六話 兵は案外大したことない

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「……とにかく大きいな」

初めて王都にやって来たアラッドの感想はその一言だった。

(父さんが治める領地の外壁も大きいけど、王都は完全にそれよりも大きい……まっ、この国で一番重要な都市なんだから当たり前か)

門に入る際、取り調べなどを行う兵士たちのレベルもそれなりに高い……とは感じなかった。

(もしかしてうちの兵士たちと同じぐらいか? 王都の門兵なんだからもっと強いかと思ってたけど、案外そんなことはないんだな)

王都に向かってモンスターが襲って来るということは殆どなく、一定の基準を満たせば兵士として雇われる。
だが、パーシブル家に仕える兵士たちは訓練だけではなく、狩りも行っているので少しずつだから確実にレベルを上げている。

(あれぐらいの兵士なら俺一人でも倒せそうだな)

絶対にそんなことはしないが、予想していたよりも兵の強さを感じなかったアラッドは思わずそんなことを考えてしまった。

「中もこれまた凄いな」

フールが治めている街も領地も負けていない。
そう思いたいところだが、色々と規模が違う。

この世界に来て魔法や武器など以外で、同じぐらいの驚きを感じた。
ただ、ここにやって来たのはパーティーに参加するためだということを思い出すと、湧き上がったテンションが直ぐに下がった。

(パーティーなぁ……楽しくないと思ってるから楽しくないのかもしれないけど、面倒な腹の探り合いとか絶対に向いてないんだよな)

まだ七歳児の令嬢や令息は腹の探り合いなど、基本的に情報戦は起こらない。
しかし権力者の子供だからこそ、マウントの取り合いはしょっちゅう行われている。

そういったやり取りをあまり気持ちいとは感じていないので、先日宣言した通り美味い料理だけ食べていたい。

(やっぱり楽しむのは無理だろうな……大人しく飯だけ食べて、権力や繋がり目当てでやって来るかもしれない令嬢は全てドラングに押し付けよう)

多くの異性かモテるのは、さぞかし気分が良いことだろう。
前世では特にモテた経験はないアラッドはそういった心地良さに憧れたことはあるが、パーティーなどで自分に寄って来る相手は大抵侯爵家と縁が結べと親から言われた令嬢たちのみ。

自分の外見だけで来られるのも嫌。
中身を知ろうともしない者と縁を結びたくない。
そう思ってしまうのは仕方ない。

そして……何よりもアラッドの中身は立派な大人。
七歳児やその辺りの女の子にモテたところで、これっぽっちも嬉しくない。

(ドラングはそれなりに同年代の異性に興味があるようだし、押し付けといて全く問題無いよな)

ドラングは騎士の道に進もうとしているので、婚約を結んでも相手の令嬢や家に迷惑を掛けることはない。

だが、アラッドの行く先は冒険者と決まっている。
そんな危険や泥臭さが待っている職業に就きたくないと思っている令嬢は多く、親も娘がそんな危険な職に就くことを望んでいない。

つまり、令嬢にとって……他家としてもドラングとの縁を結びたい。
その点に関して初めてドラングはアラッドから勝ちを奪ったと言えるだろう。

しかしそれをそもそもアラッドが望んでいないので、結局は虚しい勝利かもしれない。

「さて、夕方まで自由行動にしよう」

高級宿に到着し、宿で夕食を食べる時間まで自由に行動して良いよと言われたアラッドは母のアリサと、数人の騎士と一緒に初めて訪れた王都の散策を始めた。

「……バカみたいに大きいな」

宿を出て母と一緒に移動しようと思ったところで、思わずそんな言葉が漏れてしまった。

アラッドの視線の先に移るのは王城。
王族たちが住まう城だ。

王都に入った時、直ぐに他を圧倒する存在を確認したが、もう一度見てもデカいとつい口に出してしまう。

「王城は国の象徴でもあります。故に、他のなにより大きく偉大な存在でなければならないのですよ」

護衛として同行する騎士の一人が丁寧に説明し、それを聞いたアラッドは直ぐに納得した。

だが、直ぐに興味を失って母と一緒に興味津々である武器屋などを目指して歩き始めた。
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