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六十四話 近づかせなければ容易い

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「鋼皮を持つハードボア一分も掛からずに仕留めるとは……アラッド様が手に入れた糸、恐ろしい力を持ってますね」

「感知力が高くないと見えにくいんで、相手に気付かれず倒すのに適してますからね。あぁいった突っ込むのが得意なモンスターの相手はやりやすかったです。それより、あの……ハードボア、今日の夕食になりませんか?」

「勿論なります。直ぐに血抜きと解体を行いますので少々お持ちください」

騎士たちは最低限の見張りを残し、一気に解体を行う。
騎士といえど、偶に森の中でモンスターを相手に実戦を行っており、その際に倒したモンスターの解体も行っているので慣れた様子で解体を進めていく。

「お疲れ様、アラッド。ハードボアとの戦いはどうだった?」

「そうですね……一言でいえば、戦いやすい相手でした」

ハードボアの攻撃方法は突進、角による突き上げ。そして丸めの巨体からは考えられない跳躍力でジャンプしてからのプレス。

だが、プレスで攻撃するの稀。
基本的には突進で吹き飛ばす、もしくは圧し潰す。
そして近づいた瞬間に反り上がっている牙で体を貫く。

Cランクモンスターが繰り出す技なだけあって、二つとも高威力。
しかしそのどちらも近づかなければ攻撃を当てることができない。

アラッドの糸は相手が近づく前に拘束、妨害ができるのでハードボアは非常に転がしやすい相手だった。

「ただ、突進の威力はかなりのものだったので、一瞬突進を止めた糸が無理矢理切られるかと思いました」

「ハードモアはCランクのモンスターだからね。本気の突進を受ければベテランのタンクでも押し込まれる可能性がある。でも、仮に糸が千切られてもどうにかするつもりだったんだろ」

「糸で突進を防いだことで、威力そのものは弱まりますからね。無理矢理千切られたとしても、そこからタンクを押し込むような突進はできません。横に移動して顔を思いっきり殴るか蹴ろうかと思っていました」

その小さい体からは考えられない力があり、身体強化系のスキルも持っているので自分の何倍もの体重を持つハードボアでも、本気で打撃攻撃を食らえば先程の様に吹き飛ばされてしまう。

「頭の回転が速いね。ハードボアの素材はどうするんだい? 肉はこの場で食べるとして、牙や毛皮、魔石はそれなりの値段で売れるよ」

モンスターの素材はランクが上がれば上がるほど値段が高くなる。
Cランクモンスターの牙や毛皮、魔石を纏めて売ればそれなりの値段になる……だが、今の財力を考えれば特に売る必要はない。

こんなマジックアイテムを造りたいというアイデアが浮かんだ。
他のマジックアイテムを造る時の材料として使えるかもしれない。

それらを考えると、折角の素材を売るのは勿体ない。

「いえ、この素材は持ち帰って錬金術の素材にしようと思います」

「そうか、分かったよ」

毛皮に関しては糸を使えば立派な服に変えることも出来る。
裁縫に関してはまだまだルーキーだが、最近は空いている時間を使ってちょっとずつ上達していた。

裁縫など女の子、女性が行う趣味だと馬鹿にする者がいるかもしれないが、アラッドが扱うのはいずれもモンスターの素材を糸に変えて作る。

つまり、実戦で使える防具を造るのと同義だった。

「うん、さすがCランクモンスターの肉だな。美味い」

ハードボアの肉は騎士たちが綺麗に切り分け、全員が満足出来るだけの量があった。
野営中の料理となれば少し寂しい内容になるのだが、肉が手に入れば侯爵家であるフールは調味料を用意しているので、味付けには困らない。

道中の水も水魔法を使える者が複数いるので、水に困ることはない。

そして満腹になるまで夕食を食べたあと……アラッドの高い魔力操作によって天然の露天風呂が造られる。
騎士たちは旅に出てからこの点に関して、アラッドに祈るかのように感謝していた。
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