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四十八話 その時は口を出さない

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ドラゴンの殆どは高いプライドを持っている。
故に卵から育てれば孵した人に懐きやすいと言われており、それは確かに正しい。

だが、それでも孵した人間が弱く……もしくは魅力を感じなければ、咬みつかれてしまうケースがある。
まだ六歳であるドラングなら頭をガブっと食べられてしまう可能性だって捨てきれない。

(それに……残酷かもしれないが、仮にドラングを主だと認めたとしても更に強いアラッドを見てしまった時、ドラゴンの子供が心移りしない可能性がゼロとは言えない)

これも大々的には知られてはいないが、実際にそういった事件が起こったことがあるのだ。

(もしそうなれば、どれほど精神的なダメージを負うか……その可能性を考えれば、ドラングにドラゴンの卵を与えるべきではない)

もっと可愛い頼みであればフールも二つ返事で「いつも頑張ってるからな」といって願いを叶えるだろう。
しかし、今回ドラングはフールに頼んだ願いはあまりにも難点が多過ぎる。

「ドラング。今回の頼みに関しては色々とリスクもある。だから叶えることは出来ない」

「ッ! ……何でですか!! 俺が、アラッドよりも弱いからですか!!!!」

「違う。そういう事ではない」

いや、あながち間違ってはいないのだが、ストレートに言うべきではない。

「ドラング、お前と同じことをガルアを頼んできたことがある。だが、断った。嘘じゃないぞ。本当だ。あとでガルアに聞いても構わない」

これに関しては本当であり、竜騎士に憧れたガルアが本気でフールに頼み込んだがキッパリとそれは無理だと断った。

だが、今のドラングにはアラッドという超身近に自分よりも優秀なライバルがいるので、そいつと比べられて無理と判断しているのではと考えてしまう。

「ドラング。もし……もし君が十歳になって森の中でモンスターを狩る様になって、その時の今回のアラッドと同じくモンスターを従魔にして連れて帰って来たなら、僕は飼うことに関して口は出さないよ」

「……それは、本当ですか」

「あぁ、本当だ。運良くドラゴンの卵を拾ってきたとしても、返してこいないんて言わないよ」

ただ、その代わり街にドラゴンが襲ってこないか警戒しながら過ごす日々が続く。
そして……ドラングが自分で孵化させることに口は出さないが、孵化したドラゴンの子供がうっかりアラッドに懐いてしまっても口は出さない。

というより、本当にそうなってしまったらフールの力でどうこうすることは出来ない。

(ドラゴンの卵を運良く拾うなんてことはあり得ない。ドラゴンだって自分の子を守るのに必死だからな。ただ、他のモンスターを……ブラックウルフ以上の強さを持つモンスターを従魔にしようと動くかもしれないから、護衛を担当する兵士とメイジには十分注意するように伝えておかないとな)

ドラングはフールの言葉に納得し、部屋から出て行った。
息子が出て行ったあと、フールは大きなため息をついた。

「フール様、あまり大きなため息をつくと幸せが逃げてしまいますよ」

「実際に体験したことないから存分にため息をつかせてもらうよ……まさかドラゴンの卵を欲しいと言い出すとは、さすがに予想出来なかったよ」

「アラッド様が従魔にしたモンスターはまだ子供とはいえ、Cランクのブラックウルフです。それより強いモンスターとなれば、必然的にドラゴンを思い浮かべたのかもしれませんね」

「確かに竜騎士に憧れる気持ちは解るけど、あれはそう簡単になれるものじゃない。それと、ちょっと関係無いかもしれないけど、ドラングが十歳の誕生日を迎えるころにはあのブラックウルフ……クロは今よりも成長していると思うんだけど……どうかな?」

「間違いなく成長するでしょう。もしかしたら種族として進化するかもしれませんね。そうなった場合、はたしてドラング様が納得出来る様なモンスターを従魔にできるのか……と、お悩みですか?」

まさしくその通りだった。
日常的に実戦を行うアラッドの生活にクロが刺激を感じない訳がなく、おそらく何かが起こるだろうと確信していた。
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