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三十九話 震えが止まらない

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「良い買い物をしたな」

店の外に出てそう呟いた。
ランク五のピアスとランク六の指輪。

確かに良い買い物かもしれない……ただ、後ろでアラッドとコレアットの会話を聞いていた護衛たちがハラハラしっぱなしだった。

「アラッド様、その……お言葉ですが、アラッド様自身が身に付けようとは思わないのですか?」

「ん? あぁ、それはまぁ……結構良い装備だとは思うけど、俺は後半年後に魔境に行くわけじゃないしさ。こういうのは俺もそういう世界に飛び込むときで良いって思ってる」

「そ、そうですか……それにしても、大きな買い物をしましたね」

「そうだな……うん、確かにそうだな。買う時は即決したけど、今思うとよくあんな短時間で買うって決めたなと思うよ」

今回の買い物で使った金額は白金貨二十七枚と金貨三十枚。
一般市民からすれば失神するほどの金額。

貴族や商人であってもその金額にふらつく者がいるだろう。
アラッドも今更ながらとんでもない買い物をしたと思い始めた。

(日本円で二十七億と三千万……確実に金銭感覚が狂ってるな。前世では三億あれば一生を暮らせたんだよな。だいたいそれの九倍……でも、まだリバーシで得た金には余裕があるんだよな)

アイテムポーチの中にはアラッド自身に制作を頼んだ貴族たちから払われた金貨や白金貨がまだまだ入っている。

(それにまだまだ俺自身に作ってくれって直接依頼はあるし……今回みたいな高い買い物は控えた方が良いんだろうけど、使ってもそこまで減らないのであれば別に良い、よな?)

今回はギーラスの為という大義名分もあるので、しょうがない出費と断言した。

「でも、ギーラス義兄さんが死んだら生き返らないんだし、その命を守るための対価と考えれば安いものだと思う」

アラッドの言葉に三人はなんて兄想いなのだろうと思い、感激で涙が零れそうになった。

「流石の判断です。しかし、武器の方は買わないのですね」

アラッドの判断にケチを付けるつもりはない。
だが、まだまだ余っているアラッドの財力を考えれば魔剣を買うこともできる。

「武器に関しては父さんから貰った物を愛用してるから、ギーラス義兄さんにはそれが一番しっくりくるでしょ。買うとしても、予備の魔剣って感じかな」

どちらにしろ、今回はピアスと指輪のみ。
初めて大金過ぎる大金を使ったが、上機嫌なまま屋敷に帰って夕食を食べる。

そして食後の運動を始める前にアラッドはギーラスの部屋を訪れた。

「やぁ、アラッド。今回はなんの用だい。もしかしてまた面白い娯楽を作ったのか?」

「そっちは少し考えてるよ。でも、今回は娯楽を紹介しに来たんじゃなくて、ギーラス義兄さんに渡したい物があって来たんだ」

「アラッドからのプレゼント、ということかい? それは楽しみだね」

アラッドからプレゼント。
リバーシの時の様に面白い何かをくれるのかもしれない。

そう思うと自然と気分が高揚し始めた。

だが、二つの箱を空けると……徐々に表情が固まった。

「え、っと……アラッド。これは、いったいなんなんだい?」

「ギーラス義兄さんへのプレゼントだよ。ほら、来年には学園に入学するでしょ。学園は社会の縮図だからギーラス義兄さんの才能や実力を妬む人たちが現れるかもしれないだろ。だからその対策のために使うマジックアイテム、って感じかな」

そんな感じかな。なんて軽い言葉では表せないマジックアイテムがギーラスの目の前に置かれていた。

「アラッド、ちなみにこのマジックアイテムのランクはいくつなんだ」

アラッドが自分の身を心配してマジックアイテムを購入した好意は理解した。
だが、肝心のマジックアイテムの内容が気になった。

一目でそこら辺のマジックアイテムではないことだけは解るが、正確な内容は鑑定を持っていないのでギーラスには分からない。

「こっちのピアスはランク五の色襲の警鈴って名前のマジックアイテム。ギーラス義兄さんに害意を持つ攻撃を結界で防いでくれる。それと、その襲撃でどういった襲撃内容なのか脳に色で教えてくれる」

「ら、ランク五……」

アラッドの説明は頭に入っているが、それでもランク五のマジックアイテムという内容に手が震え出した。

「そしてこっちの指輪ランク六の破邪の指輪。毒や麻痺、石化やデバフ系の効果を無効化する効果が付与されてる。あと、精神耐性の効果も付与されてる。あと、二つとも防犯機能が付いてるからギーラス義兄さんしか使えないよ」

「ら、らららランク六ッ!!??」

目の前のマジックアイテムがとんでもなく高価な物だと改めて認識し、普段では見られないギーラスの慌てた姿がそこにあった。
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