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三十四話 恩を返す一つの形

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「……どうしようか」

自分がたった一か月でどれほどの金額を稼いだのか分かってから日々の訓練を終え、夕食を食べ終えたアラッドは自室のベッドに転がって呆然としていた。

既にアラッドの懐には黒曜金貨に届く金額が入っていた。
前世の額で換算すれば約百億円。

自分の家……いや、屋敷を買うことすら不可能ではない。
ただ、アラッドは冒険者になるまでこの家から出るつもりはないので、屋敷を買おうとは思わない。

それなら自身の武器を買うか?
多少は買うが、あまりにも自身の実力に見合わない武器を買うつもりはない。

最近はロングソードだけではなく、他の武器にも興味が出てきたので剣技の練度が落ちない程度に他の武器の鍛錬を行っていた。

(槍や短剣、弓とか斧を買うか……でも、せいぜいランク二の武器しか買わないし、金は全然減らないよな)

普段行っているモンスターとの狩りで使えれば十分。
性能がバカみたいに高い武器を買うつもりはない。

(金は使わなければ意味がない……将来のことを考えれば湯水のように使わない方が良いんだろうけど、どう考えても現在懐に入った金額を使っても、また直ぐに入ってくるよな)

アラッド本人に作ってほしいという直接依頼が多く、本気で一日リバーシを作るのに時間を使おうかと真剣に考えることがある。

「父さんは臨時収入が入って喜んでたっぽいけど……他に何か恩を返せる方法はあるか?」

稼いだ金は勿論自分の為に使おうと思っている。
だが、ここまで自由にさせてもらっている事にまだまだ恩を感じている。

金を稼ぐこと以外で何か恩を返す方法はないか……数分ほど考えるが、全く浮かばなかった。

「駄目だ、中々良い案が浮かばない……そうだ、そういえば来年にはギーラス義兄さんが学園に入学するよな」

来年から王都の学園に入学するギーラス。
まだ試験を受けていないので確定ではないが、日頃から受験に必要な知識を頭に詰め込み、剣技や魔法の訓練も怠らないギーラスが落ちる筈ないとアラッドだけではなく、屋敷で働く者たち全員が思っていた。

(ギーラス義兄さんは将来パーシブル家を背負う人。なら、そのギーラス義兄さんを守る道具があった方が良いよな)

これも恩を返す一つの形だろうと思い、洋紙とペンを取り出して頭の中に浮かんだ内容を書きだした。

翌日、兵士二人とメイジ一人を連れてモンスターを狩りに行く。

「アラッド様、今日はいつもより上機嫌ですね。何か良いことでもありましたか?」

「良いことがあったというか……良いことを思い付いたって感じだな」

「アラッド様……もしかしてまた面白い内容を考え付いてしまったのですか?」

森の中とはいえ、冒険者がいるかもしれない可能性を考えて娯楽という内容は伏せている。

「そうじゃない」

そんなことはないが、思いついたことはそうではない。
リバーシの方かにもチェスやジェンガなどを作ろうかと考えていたが、リバーシ一つでとんでもない利益を得てしまったので、一先ず新しい娯楽を作るのは先にしようと思っていた。

「ギーラス義兄さんは来年王都の学園に入学するだろ」

「えぇ、そうですね。ギーラス様であれば入学試験で上位の成績を収める……いえ、首席で合格するのも夢ではないかと」

侯爵家の上に、公爵家という位が一つ上の家が存在するが、決してギーラスの学力や実力は公爵家の令息や令嬢に劣っていない。

故に、このまま怠けず努力を続ければ首席で試験に合格する可能性は大いにある。

「そうだな……ギーラス義兄さんなら主席合格できるかもな。ただ、俺が心配してるのはそこじゃない。ほら、貴族の令息や令嬢が通う学園はあれだろ、社会の縮図だろ」

「えっと……私は貴族の出ではないのでハッキリとしたことは言えません」

「アラッド様がおっしゃったことは間違っていませんよ。というより、よくそこまで知っていますね。流石アラッド様です」

メイジである男は貴族の四男であり、学園を卒業したと同時にパーシブル家のメイジとして就職した。
ギーラスが入学する予定の学園とは違うが、男が入学した学園はアラッドが言う通り社会の縮図であった。

「少し考えれば解かることだ。そんな世界で少しでもギーラス義兄さんが生きやすいようにしようと思ってな」

アラッドの言葉を三人は直ぐに理解出来なかった。
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