34 / 1,034
三十四話 恩を返す一つの形
しおりを挟む
「……どうしようか」
自分がたった一か月でどれほどの金額を稼いだのか分かってから日々の訓練を終え、夕食を食べ終えたアラッドは自室のベッドに転がって呆然としていた。
既にアラッドの懐には黒曜金貨に届く金額が入っていた。
前世の額で換算すれば約百億円。
自分の家……いや、屋敷を買うことすら不可能ではない。
ただ、アラッドは冒険者になるまでこの家から出るつもりはないので、屋敷を買おうとは思わない。
それなら自身の武器を買うか?
多少は買うが、あまりにも自身の実力に見合わない武器を買うつもりはない。
最近はロングソードだけではなく、他の武器にも興味が出てきたので剣技の練度が落ちない程度に他の武器の鍛錬を行っていた。
(槍や短剣、弓とか斧を買うか……でも、せいぜいランク二の武器しか買わないし、金は全然減らないよな)
普段行っているモンスターとの狩りで使えれば十分。
性能がバカみたいに高い武器を買うつもりはない。
(金は使わなければ意味がない……将来のことを考えれば湯水のように使わない方が良いんだろうけど、どう考えても現在懐に入った金額を使っても、また直ぐに入ってくるよな)
アラッド本人に作ってほしいという直接依頼が多く、本気で一日リバーシを作るのに時間を使おうかと真剣に考えることがある。
「父さんは臨時収入が入って喜んでたっぽいけど……他に何か恩を返せる方法はあるか?」
稼いだ金は勿論自分の為に使おうと思っている。
だが、ここまで自由にさせてもらっている事にまだまだ恩を感じている。
金を稼ぐこと以外で何か恩を返す方法はないか……数分ほど考えるが、全く浮かばなかった。
「駄目だ、中々良い案が浮かばない……そうだ、そういえば来年にはギーラス義兄さんが学園に入学するよな」
来年から王都の学園に入学するギーラス。
まだ試験を受けていないので確定ではないが、日頃から受験に必要な知識を頭に詰め込み、剣技や魔法の訓練も怠らないギーラスが落ちる筈ないとアラッドだけではなく、屋敷で働く者たち全員が思っていた。
(ギーラス義兄さんは将来パーシブル家を背負う人。なら、そのギーラス義兄さんを守る道具があった方が良いよな)
これも恩を返す一つの形だろうと思い、洋紙とペンを取り出して頭の中に浮かんだ内容を書きだした。
翌日、兵士二人とメイジ一人を連れてモンスターを狩りに行く。
「アラッド様、今日はいつもより上機嫌ですね。何か良いことでもありましたか?」
「良いことがあったというか……良いことを思い付いたって感じだな」
「アラッド様……もしかしてまた面白い内容を考え付いてしまったのですか?」
森の中とはいえ、冒険者がいるかもしれない可能性を考えて娯楽という内容は伏せている。
「そうじゃない」
そんなことはないが、思いついたことはそうではない。
リバーシの方かにもチェスやジェンガなどを作ろうかと考えていたが、リバーシ一つでとんでもない利益を得てしまったので、一先ず新しい娯楽を作るのは先にしようと思っていた。
「ギーラス義兄さんは来年王都の学園に入学するだろ」
「えぇ、そうですね。ギーラス様であれば入学試験で上位の成績を収める……いえ、首席で合格するのも夢ではないかと」
侯爵家の上に、公爵家という位が一つ上の家が存在するが、決してギーラスの学力や実力は公爵家の令息や令嬢に劣っていない。
故に、このまま怠けず努力を続ければ首席で試験に合格する可能性は大いにある。
「そうだな……ギーラス義兄さんなら主席合格できるかもな。ただ、俺が心配してるのはそこじゃない。ほら、貴族の令息や令嬢が通う学園はあれだろ、社会の縮図だろ」
「えっと……私は貴族の出ではないのでハッキリとしたことは言えません」
「アラッド様がおっしゃったことは間違っていませんよ。というより、よくそこまで知っていますね。流石アラッド様です」
メイジである男は貴族の四男であり、学園を卒業したと同時にパーシブル家のメイジとして就職した。
ギーラスが入学する予定の学園とは違うが、男が入学した学園はアラッドが言う通り社会の縮図であった。
「少し考えれば解かることだ。そんな世界で少しでもギーラス義兄さんが生きやすいようにしようと思ってな」
アラッドの言葉を三人は直ぐに理解出来なかった。
自分がたった一か月でどれほどの金額を稼いだのか分かってから日々の訓練を終え、夕食を食べ終えたアラッドは自室のベッドに転がって呆然としていた。
既にアラッドの懐には黒曜金貨に届く金額が入っていた。
前世の額で換算すれば約百億円。
自分の家……いや、屋敷を買うことすら不可能ではない。
ただ、アラッドは冒険者になるまでこの家から出るつもりはないので、屋敷を買おうとは思わない。
それなら自身の武器を買うか?
多少は買うが、あまりにも自身の実力に見合わない武器を買うつもりはない。
最近はロングソードだけではなく、他の武器にも興味が出てきたので剣技の練度が落ちない程度に他の武器の鍛錬を行っていた。
(槍や短剣、弓とか斧を買うか……でも、せいぜいランク二の武器しか買わないし、金は全然減らないよな)
普段行っているモンスターとの狩りで使えれば十分。
性能がバカみたいに高い武器を買うつもりはない。
(金は使わなければ意味がない……将来のことを考えれば湯水のように使わない方が良いんだろうけど、どう考えても現在懐に入った金額を使っても、また直ぐに入ってくるよな)
アラッド本人に作ってほしいという直接依頼が多く、本気で一日リバーシを作るのに時間を使おうかと真剣に考えることがある。
「父さんは臨時収入が入って喜んでたっぽいけど……他に何か恩を返せる方法はあるか?」
稼いだ金は勿論自分の為に使おうと思っている。
だが、ここまで自由にさせてもらっている事にまだまだ恩を感じている。
金を稼ぐこと以外で何か恩を返す方法はないか……数分ほど考えるが、全く浮かばなかった。
「駄目だ、中々良い案が浮かばない……そうだ、そういえば来年にはギーラス義兄さんが学園に入学するよな」
来年から王都の学園に入学するギーラス。
まだ試験を受けていないので確定ではないが、日頃から受験に必要な知識を頭に詰め込み、剣技や魔法の訓練も怠らないギーラスが落ちる筈ないとアラッドだけではなく、屋敷で働く者たち全員が思っていた。
(ギーラス義兄さんは将来パーシブル家を背負う人。なら、そのギーラス義兄さんを守る道具があった方が良いよな)
これも恩を返す一つの形だろうと思い、洋紙とペンを取り出して頭の中に浮かんだ内容を書きだした。
翌日、兵士二人とメイジ一人を連れてモンスターを狩りに行く。
「アラッド様、今日はいつもより上機嫌ですね。何か良いことでもありましたか?」
「良いことがあったというか……良いことを思い付いたって感じだな」
「アラッド様……もしかしてまた面白い内容を考え付いてしまったのですか?」
森の中とはいえ、冒険者がいるかもしれない可能性を考えて娯楽という内容は伏せている。
「そうじゃない」
そんなことはないが、思いついたことはそうではない。
リバーシの方かにもチェスやジェンガなどを作ろうかと考えていたが、リバーシ一つでとんでもない利益を得てしまったので、一先ず新しい娯楽を作るのは先にしようと思っていた。
「ギーラス義兄さんは来年王都の学園に入学するだろ」
「えぇ、そうですね。ギーラス様であれば入学試験で上位の成績を収める……いえ、首席で合格するのも夢ではないかと」
侯爵家の上に、公爵家という位が一つ上の家が存在するが、決してギーラスの学力や実力は公爵家の令息や令嬢に劣っていない。
故に、このまま怠けず努力を続ければ首席で試験に合格する可能性は大いにある。
「そうだな……ギーラス義兄さんなら主席合格できるかもな。ただ、俺が心配してるのはそこじゃない。ほら、貴族の令息や令嬢が通う学園はあれだろ、社会の縮図だろ」
「えっと……私は貴族の出ではないのでハッキリとしたことは言えません」
「アラッド様がおっしゃったことは間違っていませんよ。というより、よくそこまで知っていますね。流石アラッド様です」
メイジである男は貴族の四男であり、学園を卒業したと同時にパーシブル家のメイジとして就職した。
ギーラスが入学する予定の学園とは違うが、男が入学した学園はアラッドが言う通り社会の縮図であった。
「少し考えれば解かることだ。そんな世界で少しでもギーラス義兄さんが生きやすいようにしようと思ってな」
アラッドの言葉を三人は直ぐに理解出来なかった。
301
お気に入りに追加
6,115
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
神々に天界に召喚され下界に追放された戦場カメラマンは神々に戦いを挑む。
黒ハット
ファンタジー
戦場カメラマンの北村大和は,異世界の神々の戦の戦力として神々の召喚魔法で特殊部隊の召喚に巻き込まれてしまい、天界に召喚されるが神力が弱い無能者の烙印を押され、役に立たないという理由で異世界の人間界に追放されて冒険者になる。剣と魔法の力をつけて人間を玩具のように扱う神々に戦いを挑むが果たして彼は神々に勝てるのだろうか
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる