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二十五話 珍しい二人だけの会話

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アラッドとドラングの模擬戦が行われてから数週間が経ったが、その間に二人が衝突することは一切なかった。
先の模擬戦でさすがのドラングも一か月や数か月程度の訓練でアラッドを超えられないと身に染みて解り、更に訓練に没頭し始めた。

だが、それはアラッドも同じくドラングがこれ以上自分に関わることはないだろう思い、訓練を行う時の集中力が更に増した。

二日に一度のモンスター狩りも順調であり、ついにレベルが十に上がった。
錬金術の方も良いペースで腕を上げている。

「ふぅーーーー、少し休むか」

そんな順風満帆な生活を送っているアラッドはシャドーを一旦止め、休憩を挟む。

「グラストさん、俺に何か用ですか?」

先程から気になっていた気配に声を掛ける。

「ははは、これでも気配を消していたつもりだったのですがね」

「グラストさんは強いですからね。気配を消していてもこう……油断出来ない存在感? というのが感じるんですよ」

「なるほど……それはスキルなのではなく、アラッド様特有の感知方法ですね」

実際のところ、気配感知のスキルを使ったとしても並みの者であればグラストの気配を察知出来ない。
アラッドも森の中でモンスターと戦う様になってから気配感知のスキルを習得したが、今のアラッドでは本気で気配を消したグラストの気配を感じ取ることは不可能。

故に、独特な感覚でグラストの気配を感じ取った。

「それで、いったい俺に何の用ですか」

「いえ、偶には少しゆっくりアラッド様とお話をしようかと思いまして」

「……なるほど、それは良いですね」

アラッドにとって、グラストは非常に話しやすい人物だった。
人格者であり、騎士長としての実力も申し分ない。

今のアラッドではどう足掻いても勝てない。
糸を駆使しても、グラストは容易に引き千切れる。

そんな強さもアラッドが気に入る部分だった。

「フール様は本当にお強い方でした」

現在こそパーシブル家の騎士長であるグラストだが、その前はフールが副騎士団長を務める騎士団の一員だった。

「戦場で剣に炎を纏って敵を狩る姿は思わず見惚れる光景でした」

「煉獄の豪傑……それが父さんの騎士としての二つ名だっけ」

「えぇ、団員たちのお憧れの人物でしたよ。火魔法のスキルを持つ者たちはこぞってフール様の様な剣技を身に付けようと真似をしていましたよ」

「流石父さんだな……グラストさんも、その中の一人だったんですか」

「お恥ずかしながら、私もその一人でした。もっとも、私は火よりも雷の適性が高かったのでフール様の様には慣れませんでしたが」

自分はフールの様にはなれない。それが解ってからもフールへの憧れは消えなかった。
なのでフールから領主として自領に戻る際、来てくれないかと誘われた時は感極まった。

「……でも、グラストさんはそれなら自分は違う形で上を目指して父さんの役に立とうとしたんじゃないんですか」

「アラッド様にはお見通しのようですね。早い段階で切り替えました……いつまでも火に拘ってはいられない、己の長所を生かさなければならないと……少し話は変わりますが、そんなフール様はアラッド様に物凄く期待しています」

「それは冒険者として大成することではなく、もしかして俺が当主になるかもしれないと思ってる……そういう事ですか?」

「いえ、パーシブル家の次期当主はギーラス様で確定かと。第一として、アラッド様はあまり領地の経営などに興味はないでしょう」

「えぇ、全くないです」

多少知識として頭に入っているが、基本的には興味がない内容。
そして自身が三男ということもあり、アラッドが領地経営について学ぶ機会は希望しない限り殆ど無かった。

「フール様は……アラッドが過去の自分を超えるのではないかと期待しています」

「過去の自分……ということは、俺が騎士団長になれるかもしれない……父さんはそう考えてるということ、なんですか?」

「その通りです。僭越ながら、私もアラッド様ならフール様を超えられると期待しています」

お世辞ではなく、アラッドがこのまま成長すればいずれフールを超えると、グラストは本気で思っている。
だが、アラッドはその道に進む気は全くなかった。

「……二人が期待してくれてるのは嬉しいです。ただ、それでも俺はその道に進みませんよ」

気に入っている二人から期待されていても、アラッドが進む道は変わらなかった。
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