24 / 1,048
二十四話 それはドラングのためにならない
しおりを挟む
ドラングがアラッドに再戦を挑み、ボロ負けした翌日……長男であるギーラスはガルアとドラングの母であるリーナに呼ばれていた。
「紅茶は口に合うかしら」
「えぇ、とても美味しいですよ」
その言葉に嘘はない。
ギーラスとリーナに血の繋がりはないが、仲は悪くない。
「それで……僕に何か聞きたいことがあるんですよね」
「……そうよ。子供たちの中で一番歳上であるギーラスに訊きたいの……今のドラングでは、ランクの低いモンスターと戦うのは危険なの?」
先日、ドラングが再びアラッドに模擬戦でボロ負けしたのは既に知っている。
レベル差があるので当然の結果ではあるが、ドラングはアラッドに勝つことを全く諦めていない。
今日も昼食を食べ終えてから訓練に励んでいる。
血の繋がった母であるリーナはレベルの差が縮まれば、アラッドに勝つというドラングの目標が叶うのではと思っているが……そう簡単な話ではない。
「リーナさんが焦る気持ちは解ります。ただ、今のドラングの実力では無謀に等しいです。そうですね……モンスターの中で最弱と呼ばれているスライムでさえ、対処を間違えれば体に酸を掛けられて溶かされる場合があります。同じく、比較的狩りやすいホーンラビットも攻撃を躱すタイミングを間違えれば体に風穴が空きます」
「そ、そうなのね……けど、護衛の兵士たちがいるなら問題無いのではないのかしら」
「……一緒に戦うというのであれば、大丈夫かもしれません。ただ、その場合はドラングに入る経験値が下がります。それと、父様は僕たちには一人で倒せる力を身に着けてほしいと考えています。レベルが離れすぎている兵士と一緒に戦っても、それはドラングのためになりません。いざ一人で戦う時に、無意識の内に兵士に頼っていては命を落としますから」
「なるほどね……納得せざるを得ない内容ね。でも……その心配がないほど、アラッドは強いのかしら」
五歳という年齢でモンスターと戦う特別許可を貰い、ドラングとの差を圧倒的な勢いで広げている三男のアラッド。
義理の息子が欠かさず努力を積み重ねているのは知っている。
だが、努力を積み重ねているのはドラングも同じ。
なのに何故二人にここまで大きな差が開いているのか……リーナには全く理解できない。
「アラッドは何と言うか……明確な目標を持って訓練を始めるのが早かった気がします」
「訓練を始めるのが早かったから、ドラングは追いつけない……そういうことなの?」
「それだけが理由ではないと思いますけど、特に魔力操作の腕が高いです。体や武器に魔力を纏う技術をまだドラングが習得していないのも大きいですね。ただ、アラッドの魔力操作には芸術性を感じるほど発動がなめらかです。その点に関してドラングが追い付くのは難しいでしょう」
「……それ以外にも、何か理由はあるかしら」
「そうですね……これは残酷な話ですが、魔法の才に関してはアラッドの方が数段上です。先日の一件でドラングがファイヤーボールを放つのに必要だった時間はおよそ五秒。それに対して、アラッドはたった一秒ほどでした」
「一秒……そう、それは才能の差が大きいと断言しても仕方ないかもしれないわね」
リーナも貴族の令嬢ということで、それなりの実力を持っているのでギーラスの話を聞けば、二人に大きな差があるのは直ぐに解かる。
(話を聞く限り、アラッドの剣技がドラングに劣っている様に思えない。それに魔法の腕に関しては明らかにアラッド方が上……ドラングも十歳になればモンスターと戦う許可が下りるでしょうけど、そこから追いつけるかどうか……)
おそらく一生足掻いても追いつけないかもしれない。
そんな考えが一瞬頭をよぎったが、直ぐに振り払う。
「アラッドは、ドラングと違って問題無くモンスターを倒せる実力があるのね」
「兵士たちの話を軽き聞いたところ、低ランクのモンスターであればその場から一歩も動かず倒すようです」
「一歩も動かず……それは、例の糸による攻撃、なのかしら?」
「おそらくその通りでしょう。先日の模擬戦見た限り、初級魔法でも倒してしまいそうですが……リーナさん、ドラングの将来が心配なら、なるべくアラッドから意識を逸らすようにすることをお勧めします。正直……僕もアラッドには敵わないと思ってますから」
侯爵家の長男に相応しい実力と才能を持つギーラスがアラッドに勝てないと断言した。
それを聞き、リーナはドラングをアラッドから意識を逸らす方法はないかと真剣に考え始めた。
「紅茶は口に合うかしら」
「えぇ、とても美味しいですよ」
その言葉に嘘はない。
ギーラスとリーナに血の繋がりはないが、仲は悪くない。
「それで……僕に何か聞きたいことがあるんですよね」
「……そうよ。子供たちの中で一番歳上であるギーラスに訊きたいの……今のドラングでは、ランクの低いモンスターと戦うのは危険なの?」
先日、ドラングが再びアラッドに模擬戦でボロ負けしたのは既に知っている。
レベル差があるので当然の結果ではあるが、ドラングはアラッドに勝つことを全く諦めていない。
今日も昼食を食べ終えてから訓練に励んでいる。
血の繋がった母であるリーナはレベルの差が縮まれば、アラッドに勝つというドラングの目標が叶うのではと思っているが……そう簡単な話ではない。
「リーナさんが焦る気持ちは解ります。ただ、今のドラングの実力では無謀に等しいです。そうですね……モンスターの中で最弱と呼ばれているスライムでさえ、対処を間違えれば体に酸を掛けられて溶かされる場合があります。同じく、比較的狩りやすいホーンラビットも攻撃を躱すタイミングを間違えれば体に風穴が空きます」
「そ、そうなのね……けど、護衛の兵士たちがいるなら問題無いのではないのかしら」
「……一緒に戦うというのであれば、大丈夫かもしれません。ただ、その場合はドラングに入る経験値が下がります。それと、父様は僕たちには一人で倒せる力を身に着けてほしいと考えています。レベルが離れすぎている兵士と一緒に戦っても、それはドラングのためになりません。いざ一人で戦う時に、無意識の内に兵士に頼っていては命を落としますから」
「なるほどね……納得せざるを得ない内容ね。でも……その心配がないほど、アラッドは強いのかしら」
五歳という年齢でモンスターと戦う特別許可を貰い、ドラングとの差を圧倒的な勢いで広げている三男のアラッド。
義理の息子が欠かさず努力を積み重ねているのは知っている。
だが、努力を積み重ねているのはドラングも同じ。
なのに何故二人にここまで大きな差が開いているのか……リーナには全く理解できない。
「アラッドは何と言うか……明確な目標を持って訓練を始めるのが早かった気がします」
「訓練を始めるのが早かったから、ドラングは追いつけない……そういうことなの?」
「それだけが理由ではないと思いますけど、特に魔力操作の腕が高いです。体や武器に魔力を纏う技術をまだドラングが習得していないのも大きいですね。ただ、アラッドの魔力操作には芸術性を感じるほど発動がなめらかです。その点に関してドラングが追い付くのは難しいでしょう」
「……それ以外にも、何か理由はあるかしら」
「そうですね……これは残酷な話ですが、魔法の才に関してはアラッドの方が数段上です。先日の一件でドラングがファイヤーボールを放つのに必要だった時間はおよそ五秒。それに対して、アラッドはたった一秒ほどでした」
「一秒……そう、それは才能の差が大きいと断言しても仕方ないかもしれないわね」
リーナも貴族の令嬢ということで、それなりの実力を持っているのでギーラスの話を聞けば、二人に大きな差があるのは直ぐに解かる。
(話を聞く限り、アラッドの剣技がドラングに劣っている様に思えない。それに魔法の腕に関しては明らかにアラッド方が上……ドラングも十歳になればモンスターと戦う許可が下りるでしょうけど、そこから追いつけるかどうか……)
おそらく一生足掻いても追いつけないかもしれない。
そんな考えが一瞬頭をよぎったが、直ぐに振り払う。
「アラッドは、ドラングと違って問題無くモンスターを倒せる実力があるのね」
「兵士たちの話を軽き聞いたところ、低ランクのモンスターであればその場から一歩も動かず倒すようです」
「一歩も動かず……それは、例の糸による攻撃、なのかしら?」
「おそらくその通りでしょう。先日の模擬戦見た限り、初級魔法でも倒してしまいそうですが……リーナさん、ドラングの将来が心配なら、なるべくアラッドから意識を逸らすようにすることをお勧めします。正直……僕もアラッドには敵わないと思ってますから」
侯爵家の長男に相応しい実力と才能を持つギーラスがアラッドに勝てないと断言した。
それを聞き、リーナはドラングをアラッドから意識を逸らす方法はないかと真剣に考え始めた。
344
お気に入りに追加
6,131
あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です


「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。
まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。
だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥
たまにやりたくなる短編。
ちょっと連載作品
「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる