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二十四話 それはドラングのためにならない

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ドラングがアラッドに再戦を挑み、ボロ負けした翌日……長男であるギーラスはガルアとドラングの母であるリーナに呼ばれていた。

「紅茶は口に合うかしら」

「えぇ、とても美味しいですよ」

その言葉に嘘はない。
ギーラスとリーナに血の繋がりはないが、仲は悪くない。

「それで……僕に何か聞きたいことがあるんですよね」

「……そうよ。子供たちの中で一番歳上であるギーラスに訊きたいの……今のドラングでは、ランクの低いモンスターと戦うのは危険なの?」

先日、ドラングが再びアラッドに模擬戦でボロ負けしたのは既に知っている。
レベル差があるので当然の結果ではあるが、ドラングはアラッドに勝つことを全く諦めていない。

今日も昼食を食べ終えてから訓練に励んでいる。

血の繋がった母であるリーナはレベルの差が縮まれば、アラッドに勝つというドラングの目標が叶うのではと思っているが……そう簡単な話ではない。

「リーナさんが焦る気持ちは解ります。ただ、今のドラングの実力では無謀に等しいです。そうですね……モンスターの中で最弱と呼ばれているスライムでさえ、対処を間違えれば体に酸を掛けられて溶かされる場合があります。同じく、比較的狩りやすいホーンラビットも攻撃を躱すタイミングを間違えれば体に風穴が空きます」

「そ、そうなのね……けど、護衛の兵士たちがいるなら問題無いのではないのかしら」

「……一緒に戦うというのであれば、大丈夫かもしれません。ただ、その場合はドラングに入る経験値が下がります。それと、父様は僕たちには一人で倒せる力を身に着けてほしいと考えています。レベルが離れすぎている兵士と一緒に戦っても、それはドラングのためになりません。いざ一人で戦う時に、無意識の内に兵士に頼っていては命を落としますから」

「なるほどね……納得せざるを得ない内容ね。でも……その心配がないほど、アラッドは強いのかしら」

五歳という年齢でモンスターと戦う特別許可を貰い、ドラングとの差を圧倒的な勢いで広げている三男のアラッド。
義理の息子が欠かさず努力を積み重ねているのは知っている。

だが、努力を積み重ねているのはドラングも同じ。
なのに何故二人にここまで大きな差が開いているのか……リーナには全く理解できない。

「アラッドは何と言うか……明確な目標を持って訓練を始めるのが早かった気がします」

「訓練を始めるのが早かったから、ドラングは追いつけない……そういうことなの?」

「それだけが理由ではないと思いますけど、特に魔力操作の腕が高いです。体や武器に魔力を纏う技術をまだドラングが習得していないのも大きいですね。ただ、アラッドの魔力操作には芸術性を感じるほど発動がなめらかです。その点に関してドラングが追い付くのは難しいでしょう」

「……それ以外にも、何か理由はあるかしら」

「そうですね……これは残酷な話ですが、魔法の才に関してはアラッドの方が数段上です。先日の一件でドラングがファイヤーボールを放つのに必要だった時間はおよそ五秒。それに対して、アラッドはたった一秒ほどでした」

「一秒……そう、それは才能の差が大きいと断言しても仕方ないかもしれないわね」

リーナも貴族の令嬢ということで、それなりの実力を持っているのでギーラスの話を聞けば、二人に大きな差があるのは直ぐに解かる。

(話を聞く限り、アラッドの剣技がドラングに劣っている様に思えない。それに魔法の腕に関しては明らかにアラッド方が上……ドラングも十歳になればモンスターと戦う許可が下りるでしょうけど、そこから追いつけるかどうか……)

おそらく一生足掻いても追いつけないかもしれない。
そんな考えが一瞬頭をよぎったが、直ぐに振り払う。

「アラッドは、ドラングと違って問題無くモンスターを倒せる実力があるのね」

「兵士たちの話を軽き聞いたところ、低ランクのモンスターであればその場から一歩も動かず倒すようです」

「一歩も動かず……それは、例の糸による攻撃、なのかしら?」

「おそらくその通りでしょう。先日の模擬戦見た限り、初級魔法でも倒してしまいそうですが……リーナさん、ドラングの将来が心配なら、なるべくアラッドから意識を逸らすようにすることをお勧めします。正直……僕もアラッドには敵わないと思ってますから」

侯爵家の長男に相応しい実力と才能を持つギーラスがアラッドに勝てないと断言した。
それを聞き、リーナはドラングをアラッドから意識を逸らす方法はないかと真剣に考え始めた。
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