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六話 将来を心配する兄と姉

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「あいつも決して弱くはないと思うんだが……あれだな、相手が悪かったってやつだ」

「ガルアの言う通りね。強いだろうなとは思っていたけど、まさかあんなに速く動いて、しかも一撃で仕留めるなんてね……ちょっと私たち抜かれそうじゃない?」

子供ながらに冷静さを持っているルリナは落ち着いて現状を把握した。
自分は同世代の子供たちと比べて、それなりに強いというのは自覚している。

だが、才能云々は置いといてアラッドはいずれ自分を追い抜く……もしくは既に追い抜いているのではと思った。

「それはねぇ……と言いたいところだが、全くモンスターを倒していない状態であの強さだろ……ギーラス兄さん、ちょっと立場が危ういかもとか思わないのか?」

「アラッドのことを何も知らなかったら、あの強さに恐れていたかもしれないね」

貴族の家は基本的に長男が家督を継ぐ。
だが、何事にも例外はある。

長男が家督を継ぐ前に不幸な死で亡くなった場合を除いても、長男以外が家督を継いだ例はある。

アラッドの存在が気になっていたギーラスは偶に声を掛け、世間話をする。
五歳児にしては頭が良く、大人びている……自分より歳上の人と話している様な感覚を持ってしまう。
しかし家督に興味があるのかと質問した際に、堂々とした表情でアラッドは答えた。

「全く興味ない。十五を超えたら俺は母さんと同じ様に冒険者になる」

それが嘘なのか誠なのか……まだそこまで他人の表情から真意を読み取ることに慣れてはいないが、この時ばかりはアラッドは本気なのだと解った。

「でも、アラッドは全くパーシブル家の当主という立場に興味がない。だから僕にとっては少し不愛想だけど、話していて楽しい弟さ」

「ふ~~~ん……まぁ、確かに良い弟ではあるのよね。憎たらしいぐらいに頭が良いけど」

「それについては同感だな」

ルリナとガルアはあまり勉強に興味がなく、学力が高い方ではないのであっさりと色々覚えていくアラッドの学力が妬ましく感じる。

「ふふふ、それに関してはアラッドが真面目に学ぼうとしてるからちゃんと結果が出てるだけだと思うけど……今はそれより、僕はドラングの今後が心配だな」

「そうだなぁ……俺も実の兄として、あいつが今後ひねくれてしまわないか心配だ」

アラッドが三男でドラングが四男だが、二人が生まれた年は変わらない。
兄弟の中でドラングはアラッドのみに対抗意識を燃やしている。

それはドラングが生きていく中で、一生燃え続ける感情……かもしれない。

「グラストさんのお陰で今回は平和に済んだけど、多分また模擬戦を申し込むと思うんだけど……二人はどう思う?」

「ドラングの性格上、絶対にまた挑むでしょうね」

「挑むだろうな……向上心はあるから、しっかり実力を付けていくとは思うが……それはアラッドも同じなんだよな」

ガルアとしては、やはり実の弟であるドラングを応援したい。
だが、アラッドが一日の間、どれだけ強くなることに時間を費やしているのかを考えると、ドラングがアラッドに勝利する日はいつくるのか……全く予想できない。

「アラッドにとってドラングは多分、面倒な理由で絡んでくる同い年の男子という認識程度で、弟とは思っていないはず。だから、僕たちがそれなりに気を掛けないとね」

「そうねぇ……女である私が相談に乗れるかは分からないけど、それなりに気を付けてみるわ」

「……俺は言葉を選んだ方が良さそうだな」

エリート教育を受けてきた三人は既に考え方が子供のそれではない。

そしてアラッドとドラングの模擬戦が終わってから一時間後、グラストはパーシブル家当主であるフールの仕事部屋の前に立っていた。

「フール様、グラストでございます。少々お時間よろしいでしょうか」

「あぁ、構わないよ。入ってくれ」

「失礼します」

仕事部屋の中に入ると、フール以外にもう一人の男性が書類仕事に追われており、傍には三十代半ばではあるが老いを感じさせない若さを持つメイドが立っていた。

「よし、一旦休憩にしよう。ナダックも休憩しよう」

「分かりました。お言葉に甘えさせてもらいます」

「紅茶を用意しますね」

書類仕事の補佐をしているナダックは座っている椅子に体重を預けるようにして休憩。
フールはグラストからなにかしらの話があるのは解っていたので、デスクの前にあるソファーに座った。
そしてフールに促され、グラストもソファーに腰を下ろして本題に入る。
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