5 / 1,012
五話 それは格を下げる発言となる
しおりを挟む
騎士長、グラストの予想では二人の模擬戦はそれなりに長引くと思っていた。
日頃から鍛錬を重ね続けているアラッド。
五歳の誕生日に剣技のスキルを手に入れ、最近は今までより剣術の稽古に意欲的なドラング。
まだ二人が五歳ということもあり、そこまで大きな差はないと考えていた。
騎士として贔屓目なしの眼で予想し、六対四でアラッドがやや有利。
そう思っていたが……結果は大きく覆された。
グラストが模擬戦開始の合図を行ったと同時に身体強化のスキルを発動し、拳と脚に魔力を纏った。
そして一瞬でドラングとの距離を詰め、あばらに重い拳がめり込んだ。
(俺はアラッド様の実力を甘く見ていたようだ)
普段はあまり兵士たちと模擬戦を行うことはなく、ロングソードを扱う際の注意点などを聞いてひたすら素振りや素手によるシャドーを行う。
魔力操作の訓練も重点的に行っているのは知っていた。
だが……それでもここまで圧倒的な結果になるとは思っていなかった。
(流れるような動作で魔力を部分的に纏い、ドラング様が反応出来ない速度で懐に潜り、一撃を入れた……圧倒的過ぎる)
現在、長男であるギーラスや次男のガルア、長女のルリナを含めて全員が戦闘訓練を日常的に行っている。
その中でもルリナとガルアはアラッドの四つ上で、現在九才。
普通に考えて才能があったとしても、五歳児が九歳の子供に勝つのは不可能に近い。
その筈なのだが、グラストは二人がアラッドに勝てるビジョンが浮かばなかった。
(さすがにギーラス様と戦えば、勝つのはギーラス様だが……ルリナ様とガルア様には高確率で勝利する可能性が高い。まさに傑物)
二人の模擬戦を観ていた三人もまさかの光景に驚かざるを得なかった。
三人ともアラッドがやや有利な戦況になると思っていたが、ふたを開けてみればアラッドの圧勝。
勝った本人は特に勝利を喜ぶことはなく、訓練場から出て行った。
「はぁ、はぁ、はぁ……クソっ!!!! あの野郎……どこにいった!!!!」
「アラッド様は訓練場から出て行きました。そしてドラング様、今のは油断していたから直ぐに再戦を行う、とは口にしない方がよろしいかと。油断している隙を突いた、それは立派な戦術です。それを理由に再戦を申し込もうとすれば、それはドラング様の格を下げる行為になります」
「うぐっ!!! …………クソッ!!!!!!!!」
先にグラストが全て話したことで、ドラングがアラッドに無茶な理由で再戦を申し込むことはなかった。
ドラングはグラストが真剣に自分のことを考えて発言したのだと子供ながらに解り、ギリギリのところで理性が勝ち、直ぐにアラッドに勝負を挑もうとは思わなかった。
(ドラング様が決して弱いのではない。寧ろ同年代の子供と比べれば格上の存在になるだろう……だが、今のアラッド様とはあまりにも差が大きい)
今回の模擬戦で、アラッドはパンチという攻撃方法しか使用しなかった。
アラッドは既に剣技のスキルを習得しており、糸というエクストラスキルという切り札もある。
そして魔法の才も並ではなく、魔法という攻撃手段もある。
(平行発動できるかどうかは解らないが、仮に……もし仮に平行発動を習得していれば、今のドラング様には全く勝機がない)
この世界では魔法を発動する際に、詠唱は必要ない。
だが、発動するまでに威力相応の時間が必要。
そして魔法を使い慣れていなければ、集中して魔法を使わなければ上手く発動しないので、基本的にその場から動けない。
しかし器用な者、もしくは根性と努力で慣れてみせた者は動きながら魔法を発動することができ、その技術を平行発動と呼ぶ。
五歳児が平行発動を習得したという記録はないが、グラストはアラッドならもしかしたらと思ってしまった。
「あれね、瞬殺だったわね」
「そうだね。もっと接戦になると思ってたけど、まさかこんな結果になるなんてね……血の繋がった兄であるガルアとしてはやっぱり悔しいかい?」
「……いや、あんまりだな。模擬戦が始まる前はドラングに勝ってほしいなって思いはあったが、結果を見たら可能性が全くないと解ってしまった」
ギーラスは五歳の誕生日にドラングと同じく剣技のスキルを手に入れ、ルリナは細剣技。ガルアは槍技のスキルを手に入れた。
三人の仲は悪くなく、それなりに良好といえる関係だった。
日頃から鍛錬を重ね続けているアラッド。
五歳の誕生日に剣技のスキルを手に入れ、最近は今までより剣術の稽古に意欲的なドラング。
まだ二人が五歳ということもあり、そこまで大きな差はないと考えていた。
騎士として贔屓目なしの眼で予想し、六対四でアラッドがやや有利。
そう思っていたが……結果は大きく覆された。
グラストが模擬戦開始の合図を行ったと同時に身体強化のスキルを発動し、拳と脚に魔力を纏った。
そして一瞬でドラングとの距離を詰め、あばらに重い拳がめり込んだ。
(俺はアラッド様の実力を甘く見ていたようだ)
普段はあまり兵士たちと模擬戦を行うことはなく、ロングソードを扱う際の注意点などを聞いてひたすら素振りや素手によるシャドーを行う。
魔力操作の訓練も重点的に行っているのは知っていた。
だが……それでもここまで圧倒的な結果になるとは思っていなかった。
(流れるような動作で魔力を部分的に纏い、ドラング様が反応出来ない速度で懐に潜り、一撃を入れた……圧倒的過ぎる)
現在、長男であるギーラスや次男のガルア、長女のルリナを含めて全員が戦闘訓練を日常的に行っている。
その中でもルリナとガルアはアラッドの四つ上で、現在九才。
普通に考えて才能があったとしても、五歳児が九歳の子供に勝つのは不可能に近い。
その筈なのだが、グラストは二人がアラッドに勝てるビジョンが浮かばなかった。
(さすがにギーラス様と戦えば、勝つのはギーラス様だが……ルリナ様とガルア様には高確率で勝利する可能性が高い。まさに傑物)
二人の模擬戦を観ていた三人もまさかの光景に驚かざるを得なかった。
三人ともアラッドがやや有利な戦況になると思っていたが、ふたを開けてみればアラッドの圧勝。
勝った本人は特に勝利を喜ぶことはなく、訓練場から出て行った。
「はぁ、はぁ、はぁ……クソっ!!!! あの野郎……どこにいった!!!!」
「アラッド様は訓練場から出て行きました。そしてドラング様、今のは油断していたから直ぐに再戦を行う、とは口にしない方がよろしいかと。油断している隙を突いた、それは立派な戦術です。それを理由に再戦を申し込もうとすれば、それはドラング様の格を下げる行為になります」
「うぐっ!!! …………クソッ!!!!!!!!」
先にグラストが全て話したことで、ドラングがアラッドに無茶な理由で再戦を申し込むことはなかった。
ドラングはグラストが真剣に自分のことを考えて発言したのだと子供ながらに解り、ギリギリのところで理性が勝ち、直ぐにアラッドに勝負を挑もうとは思わなかった。
(ドラング様が決して弱いのではない。寧ろ同年代の子供と比べれば格上の存在になるだろう……だが、今のアラッド様とはあまりにも差が大きい)
今回の模擬戦で、アラッドはパンチという攻撃方法しか使用しなかった。
アラッドは既に剣技のスキルを習得しており、糸というエクストラスキルという切り札もある。
そして魔法の才も並ではなく、魔法という攻撃手段もある。
(平行発動できるかどうかは解らないが、仮に……もし仮に平行発動を習得していれば、今のドラング様には全く勝機がない)
この世界では魔法を発動する際に、詠唱は必要ない。
だが、発動するまでに威力相応の時間が必要。
そして魔法を使い慣れていなければ、集中して魔法を使わなければ上手く発動しないので、基本的にその場から動けない。
しかし器用な者、もしくは根性と努力で慣れてみせた者は動きながら魔法を発動することができ、その技術を平行発動と呼ぶ。
五歳児が平行発動を習得したという記録はないが、グラストはアラッドならもしかしたらと思ってしまった。
「あれね、瞬殺だったわね」
「そうだね。もっと接戦になると思ってたけど、まさかこんな結果になるなんてね……血の繋がった兄であるガルアとしてはやっぱり悔しいかい?」
「……いや、あんまりだな。模擬戦が始まる前はドラングに勝ってほしいなって思いはあったが、結果を見たら可能性が全くないと解ってしまった」
ギーラスは五歳の誕生日にドラングと同じく剣技のスキルを手に入れ、ルリナは細剣技。ガルアは槍技のスキルを手に入れた。
三人の仲は悪くなく、それなりに良好といえる関係だった。
294
お気に入りに追加
6,106
あなたにおすすめの小説
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる