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四話 どちらなのか分からない。

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俺はアラッドよりも上だ。
アラッドは俺よりも下だ。

それを証明し、周囲の人間に知らしめる為にドラングはアラッドに一対一の模擬戦を行うと言い出した。
言葉が乱暴であったため、提案というよりも命令に近かった。

自分がわざわざドラングと戦う必要はない。
なのでドラングとの模擬戦を受けるつもりはなかった。

(いや……もしかしたら良いチャンスなのか?)

ドラングとの模擬戦で圧倒的な力の差を見せ付ければ、モンスターと戦って糸の性能を調べる機会が近くなるかもしれない。

そう考えたアラッドはドラングからの提案を受けた。
そして場所は庭から騎士や兵士たちが集まる訓練場に移る。

訓練場には第一夫人、エリアの息子である長男のギーラスと長女のルリナ。
第二夫人、リーナの息子である次男のガルアもいた。

騎士たちやギーラスたちも含め、どちらが勝つかという話題で盛り上がっていた。
アラッドが黙々と訓練を続けているのはパーシブル家の者であれば誰でも知っている。

だが、ドラングも訓練をサボって怠けているぐーたら坊ちゃんではない。
加えて、五歳の誕生日に剣技のスキルを得た。

これらを考えるに、互角の勝負になるのではと考える者が多い。

ギーラスとルリナは冷静な目でどちらが勝つかを予測し、ガルアはどういった過程で模擬戦になったのかは分からないが、実の弟であるドラングに勝ってほしいと思っている。

思っているが、ガルアもアラッドが普通の子供では考えられないほど自身を追い込み強くなろうとしているのを知っているので、勝ってほしいと思っていてもドラングが勝つとは断言出来なかった。

この模擬戦の審判は騎士長、グラストが務める。

「それではお二人とも、今回の勝負は模擬戦ということをお忘れないように」

「分かってるよ!」

「あぁ、分かってる」

両者の眼を見て、グラストはこの模擬戦の結果がどうなるか分かってしまった。
分かってしまったが、表情には出さずに膝を上げて立ち、開始の合図と共に手を振り下ろした。

「始め!!!!」

アラッドとドラング。二人とも今回の模擬戦では木剣を持ち、使用することができる。
そんな中、アラッドは身体強化のスキルを発動。
加えて脚に魔力を纏い、拳に魔力を纏った。

「せいっ!!」

「ッ!!!!! ぐっ、がっ! げほっ、げほ」

ドラングの予定ではまず剣技でアラッドを翻弄し、そして徐々に追い詰めてから最近習得したスキル、スラッシュで止めを刺す。

そこでグラストがアラッドの戦闘続行を宣言し、模擬戦に勝利する。
何度も脳内にイメージを浮かべ、シミュレーションは完璧だった。

だが、グラストが模擬戦の合図をしたと同時にアラッドが開始線から一瞬で目の間に動いた。
そして剣を振って迎撃するよりも前に、アラッドの魔力を纏った右拳がドラングのあばらに決まって斜め横に吹っ飛んだ。

数度地面を跳ね、ようやく勢いは止まった。
何が起こったのか直ぐに理解できなかった。できなかったが、体が地面に倒れているので直ぐに立とうとした。

このままではまたアラッドが迫ってくる。とにかく立たなければいけない。
そう思って体に力を入れようとするが、何故か立てなかった。

理由は単純であり……アラッドに殴られたあばら骨が折れていたから。

「ッ!!! そこまで、勝者はアラッド様!!! マリーナ、直ぐにドラング様にヒールを使用するんだ!!」

「はい!!!」

グラストは一発でドラングのあばら骨が折れたのを察知し、勝者はアラッドだと宣言。
そして訓練時には直ぐに大怪我を負った兵士や騎士の傷を治すために常勤しているマリーナを呼び、ドラングの傷を癒すように指示を飛ばした。

今まで骨折という大怪我を負ったことがなかったドラングは自分の骨が折れたと本能的に解ると、涙を流しながら悲鳴を上げた。

マリーナが直ぐに駆け付け、回復魔法のスキルを習得することで覚えられるスキル技、ヒールを使用したことで折れた骨は直ぐに治り、痛みも引いた。

(……圧倒的な差を見せ付けるつもりだったが、こんなにあっさりと終わってしまうと俺がちゃんと強くなったのか、ドラングが弱すぎたのか分からないな)

模擬戦にあっさりと勝ってしまったアラッドはまだ夕食まで時間があるので、糸の性能を調べる為に庭へ向かった。
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