上 下
3 / 984

三話 名前で騙されてはならない

しおりを挟む
五歳の誕生日に、アラッドは糸というスキルを授かった。

このスキル、今まで所有者が確認されたことがないので、一応エクストラスキルという扱いになる。
だが、明らかに戦闘用のスキルではない。

家殆どの者たちがそう思った。

歳は殆ど変わらない四男のドランクはここぞとばかりアラッドを馬鹿にした。
アラッドは転生者なので、幼い頃から幼児とは思えない行動力で周囲を驚かし、努力を重ねていた。

なのでアラッドの父親であるフールやパーシブル家に仕える者たちは自分たちが驚かされるスキルを得るかもしれない。
そう思っていた。

アラッドの誕生日が過ぎ、ドランクの誕生日を迎えると……四男のドランクは今まで剣の訓練を行っていても習得出来なかった、剣技を得た。
これにより、ドランクは他人より優れた剣技の才を持つと証明された。

その日、更にドランクはアラッドに対して傲慢的な態度を取るようになった。
完全に自分がアラッドの力を上回った。そう確信した。

しかし、アラッドは剣技のスキルを得たドラングは怖いと一ミリも思わなかった。

アラッドは糸というエクストラスキルが無能ではないと知っていた。
そして……父であるフールと、実母であるアリサと騎士団の数名だけはもしかしたらと、糸に秘められた可能性に気付いていた。

糸……一般的に見れば、布と布とを縫い付けて何かを作る。
それだけの道具にしか思わないだろう……だが、荒事に慣れている者たちは糸という武器が殺しに使われることを知っていた。

「……やっぱりな」

前世ではそれなりにバトル漫画やライトノベルを読んでいたので、武器には詳しい。
アラッドは誕生日に糸のエクストラスキル得てから、日々の訓練に糸の扱いを向上させる項目を加えた。

現在アラッドが屋敷の庭で使用したスキル技はスレッドサークル。
糸の円斬は綺麗に草を刈り取った。

「これはかなり使えるな……うん、そろそろ戦ってみたいな。モンスターと」

自分に大きな力がある。
それを知ったしまえば、当然それを試したくなってしまう。

(糸で使えるスキル技は、正直人に使うものじゃない。いや、使えるものもあるけど……どちらかと言えば、やっぱり暗殺や殺す系の技だからな)

それでも、いったいどれほどの効果をもつのか知りたい。

(こっそり屋敷を抜けて街を抜けたら……って無理か。仮に抜け出せたとしても、超心配される。いや、アリサ母さんだけは流石私の息子だ!! って褒めるか?)

元冒険者だけあって、アリサには少々大雑把なところがある。
なので本当にアラッドが屋敷を抜けて街を飛び出し、森の中でモンスターを狩っても多少怒りはするが、七割は褒める。

だが、フールは確実に怒る。
その光景が目に見えているので、馬鹿な真似はしない。

(……正直、低ランクのモンスターであれば負けない筈。身体能力はまだ五歳児だからしょぼいけど、身体強化が使える。剣技も習得している……魔法だって一応使える)

五歳の誕生日に糸という良く分からないエクストラスキルを得た後も、アラッドの将来に期待している者が多い。

そんな状況が続いていれば……当然、面白く無いと感じる者がいる。

「おい、アラッド!! こんなところで何やってるんだよ、サボりか!!!!」

「……声がデカいうるさい。お前こそ、こんなところで何してるんだよ、ドラング」

そう、パーシブル家の四男……ドラングにとってその状況は面白く無い。
自分は五歳の誕生日の日に剣技のスキルを得た。

自身の父も五歳の誕生日に剣技を得て、若い頃には国に仕える第一騎士団の副騎士団長まで上り詰めた。
そんな父と同じ才能を手に入れた。

もう……自分がアラッドより下である筈がない。
ただ、周囲の者たちはそう思っていない。
アラッドは糸というスキルを得てからも、日々の鍛錬を怠ることはない。

故に、家に仕える者たちからの期待はドラングよりも大きい。
フールも態度には出していないが、ドラングよりもアラッドの将来に期待している。

それらの現状をどうやって覆せばいいのか……答えは一つ。
一対一の勝負で勝てば良い。だたそれだけで現状が変わる……かもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...