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八百五十九話 意外と効率が良い

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「ソウスケさん、ミレアナさん、ザハークさん。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

第三騎士団は、主に王族の女性を守る女性騎士団。

ソウスケに挨拶をした女性は、既に四十を越えているものの……多くの部分が二十代後半にしか見えない瑞々しさを有している。

「えっと、それでは……まず訓練を始める前に、自分の実力に疑問を持っている方がいれば、一歩前に出てきてもらえないですか」

騎士団長は当然ながら前に出ないが、何名かの女子騎士……特に男嫌いが激しい女性騎士が反射的に前に出た。

(良かった……って、別に良くはないんだよ。確かにあぁ言って、誰一人としていなかったらそれはそれで変な気持ちになるけども)

合計、六人の女性騎士が一歩前に出て、それぞれがソウスケと……ザハークに鋭い視線を送っていた。

「それでは、今から俺と六人の方々で戦いましょう」

「「「「「「ッ!!??」」」」」」

今までソウスケは、自身のことを気に入らない騎士に対し、一対一で沈めてきた。
しかし、相手を納得させた上で沈めるのは……少々時間がかかる。

なので数的有利であるにもかかわらず負けたという、どう頑張っても反論が出来ない状態で彼女たちの反抗心を折ろうと決めていた。

「ふむ……時間削減を考えると、そちらの方がよろしそうですね」

「理解いただいてなによりです」

女性騎士団長、アマンダ・ファニエスは一対六の模擬戦を申し出たソウスケに対して、特に心配するような素振りを見せず、提案を了承。

その対応が更に六人の怒りを買う。

「それでは、審判をお願いしても良いですか」

「えぇ、勿論です」

こうして予定通り、女性騎士たちとの模擬戦がスタート。

「ハッ!!!!」

「ヤッ!!!!」

一対六という絶対的に数有利な状況であっても、彼女たちは六人でソウスケを囲むようなことはせず、冷静にそれぞれの役割を把握して冷静に攻め込む。

(ふ~~ん……これまでの話が広まってるからか、それなりに馬鹿みたいに力づくで倒そうとはしてこないな。しっかりと連携して攻撃を仕掛けてくる)

即席の連携ではなく、日頃の成果が十全に現れている。

その練度に心の中で賞賛を送りながら、冷静に迫る攻撃を二本のロングソードで弾く。

(そろそろ三分か四分ぐらい経ったかな)

この模擬戦はソウスケにとって、騎士たちのガス抜き戦。
数分ぐらいは適当に攻めて守ってを繰り返す。

面倒なやり方かもしれないが、最後に圧倒的な速度で騎士たちを倒す流れであるため、反抗心を折るという目的を考えれば、非常に有効的な手段と言える。

「ッ!!!???」

「あがっ!?」

「なっ!? ッ!!!!」

「いっ!!??」

「クソッ!!!! っ、ぁ……」

「あ、ぁ……」

ソウスケがその気になった瞬間、彼女たちの腹に次々と拳と蹴りがめり込まれ、武器をロングソードの斬撃によって弾き飛ばされてしまった。

「そこまで。さぁ、あなた達。これで英雄と呼ばれる方が、どれほど強いのか……身に染みて解ったでしょう」

「「「「「「はい」」」」」」

ソウスケという特別指導者に対して、嫌悪感が全て消えたわけではない。

それでも、実際に戦って完敗しても少年が自分たちより強いという事実を認められない程、彼女たちは落ちぶれていなかった。

「では、訓練を始めましょう」

特別指導という名目で一日限り指導者となったソウスケだが、やる事と言えば何回も何回も第三騎士団の女性騎士たちと模擬戦を行い、その度に何かしら気付いた弱点や変な癖、改善案などを伝える。

(最初は結構鋭い目を向けてたけど、こっちが伝えたアドバイスは随分素直に聞いてくれるな。それだけ王族の女性たちに対する忠誠心が強いのか……それとも、同じ女性を守ろうとする意識が飛び抜けてるのか)

答えは片方のどちらかではなく、両方。
彼女たちは主に立場、力が弱い同性たちを守るために、たとえまだ嫌悪感を持っている相手からのアドバイスであっても、素直に聞き入れて更なる高みを目指す。
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