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八百十七話 代償

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自身と敵の動きに、やや差が現れ始めた。

その差について直ぐに理解したザハークは……スタミナ切れを待たず、仕留めに掛かる。
疲れた相手に止めを刺して勝つなど、ザハークが求める勝利ではない。

まだ……まだ強者である状態の敵を倒してこそ、勝利の価値が高まる。

敵はまだまだ赤毛のアシュラコング以上の強敵だと認識し、ラストスパートを駆ける。
ソウスケやミレアナの様な優秀な仲間がいれば、漁夫の利を狙おうとしてるかもしれない敵に意識を裂く必要などない。

ただただ真の強敵だと認めた強者を潰す。

(まだ、まだ負けられないんだからっ!!!!!!)

敵の圧が更に強まったと感じるも、自身のスタミナが低下中であることなど気にする余裕などなく……肺が壊れる勢いで猛撃に対応。

今のルティナ・ヴィリストに援軍が来るかもしれない、などと考える余裕は一切ない。

目の前の強敵が繰り出す猛撃を区切り抜け、それを超える猛撃を叩きこむ。
その一心で己の命を燃やし尽くす勢いで動く。

(ザハークが仕留めに掛かるためにギアを更に上げた……にも関わらず、その状態に最後の力を振り絞って付いて行ける身体能力、諦めない精神力……まさに敵ながら天晴れな騎士だ。いや、マジで本当に化け物だ)

(レヴァルグという武器だけではなく、全てが脅威となるソウスケさんを狙うためにこちらのエリアに派遣されただけはありますね。こうして探し始めた一日目にぶつかり合えたのは幸いだと言えるでしょう)

今日ソウスケたちと出会わなければ、多くのエイリスト王国側の戦闘者たちが彼女たちに殺されていたのは間違いない。

(というか、ちょくちょくこっちに水刃が飛んでくるあたり、本気で集中してやがる、な……)

それだけ集中していれば、どれだけルティナ・ヴィリストが盛り上げようとしても、ザハークが勝つという結果だけは変わらない。
そう思っていたソウスケ本体。
ミレアナもソウスケ本体と同じく、過程は変化すれど、結末は変わらないと思っていた。

ただ……強者と呼べるほど戦闘経験を積んでいる二人や、戦闘経験数だけであれば二人に負けない騎士や冒険者たちは……思わずその動きに見惚れそうになった。

高速で動き回る中、何故かその動きだけはスローモーションで見える。

ソウスケ本体とミレアナもスローモーションに見える動きに美しさを感じていた……が、本能によって体は二人の意思とは関係無く動いていた。

ソウスケ本体はレヴァルグを亜空間から取り出し、ミレアナはルティナ・ヴィリストの動きを止める為に氷槍を十数本展開。

(あれは……不味い!!!!!)

無音の一閃。

ルティナ・ヴィリストが、サイレントハーベストという名の二つ名で呼ばれる要因となった最速の一振り。

放たれた一撃は、そのまま振り抜かれれば……頭と胴体がおさらばしてしまう。

(心が、踊るな!!!!!!)

可能のであれば、全力の一撃をサイレントハーベストが放つ無音の一撃にぶつけたかった。
しかし、さすがのザハークも頭が胴体おさらばしてしまうと、復活は不可能。

こんなところで死ぬつもりはなく、全力で左腕に魔力を纏い、水の盾を何枚も生み出す。
水質を変えているため、水であろうとも盾になるが……綺麗に切断されていく。

当然ように水の盾を全て切断し、ザハークの左腕に到達。
元々強化系のスキルをがっつり使用しており、並みの斬撃であれば弾いてしまうのだが……無音の一戦は容赦なく左腕を切断。

「見事だ」

「がばっ!!!!????」

勝ったと確信できる一閃を放てた。

しかし、切断できたのは左腕のみで、首を切れていない。
逆にカウンターで腹にアッパー気味のブローを入れられ、盛大に血反吐を吐き出しながら吹っ飛ぶ。

左腕を代償にしたことで、ギリギリ首の切断を回避することに成功したザハーク。
見事大将戦で勝利を収めた。
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