上 下
833 / 1,043

八百三話 安らかな眠りを祈る

しおりを挟む
休息、プラス軽い食事を終えたソウスケ本体たちは、再び前に進み、遭遇した敵部隊たちと交戦を行う。

今のところ全戦全勝。
一度の敗戦もなく勝ち進んでいるソウスケ本体たちだったが……ようやく、超強敵と言える部隊と遭遇。

(ちっ! 二日目にして、ルクローラ王国側はメインの戦力を投入してきた、ってところか?)

最低戦力はBランク。
最高戦力はAランクの中でも上位に差し掛かる戦闘力を持つ部隊。

そんな戦争中にぶつかった部隊の中では、最高戦力を有する部隊との激突。
当然、戦闘は激化する。

Aランクの冒険者や、Aランク相当の戦闘力を有する騎士たちが相手であれば、ソウスケ本体も目の前の相手に集中することに手一杯に近い状態。

こんな時は……色々と持っているソウスケ本体ではなく、その仲間であるミレアナとザハークが暴れ回る。

「何だてめぇは! 同族なんか!!??」

鬼人族の冒険者が、特製の金棒を振り回しながら吼える。

「いや、俺はオーガだ。偶に間違えられるが、な」

「そうかよ。なら、遠慮なくぶっ潰せるってもんだ!!!!」

戦争という状況下とはいえ、やはり同族を殺すのは気が引ける。

そんな中、自分と同じ同族には見えなくない……しかし、どこか引っ掛かる敵に対し、質問を投げかけ……ある意味ホッとした鬼人族の男は、金棒に火を纏ってラストスパートを駆ける。

「ふんっ!!!」

戦況があまり良くないことを把握しているため、普段であればもっと楽しみたい一戦ではあるが、今回ばかりは早急に終わらせようと動いた。

鬼人族の男はAランクの冒険者であり、そのランクに相応しい肉体と強化スキルを持っていた。

ただ、それはザハークも同じ。
希少種という他者とは違う強みを遺憾なく成長させている。

「がっ!? ごっ、の」

なるべく男の動きを読み、数秒の間に何十という攻防を交わす間に、後方から一つの水球をぶつけた。

ただぶつけて終わりではなく、その水球は男に纏わり付く。
男の身体能力を持ってすれば、水球が動くよりも速く体を動かし、呼吸が出来ない状態から脱出が可能。

しかし、ザハークは一瞬たりとも男を逃がそうとせず、完全に先回り。
加えて魔力操作により、水球は若干ではあるが、粘着性の効果を持っていた。

「安らかに眠れ」

首を振っても抜け出せない水球によって意識を失い、最後は首を刎ねる。

ザハークとしても不本意な倒し方であり、そう言わずにはいられなかった。

(さて、次はどいつを潰すか)

部隊の中でも強敵を無傷で倒すことに成功したが、まだまだ鬼人族の男に匹敵する力を持つ強敵は存在する。

(……いや、七割方はサポートに意識を向けるか)

ミレアナが珍しく本気に近い実力を発揮しようとしているのを察し、ザハークは仲間の援護を優先した。

(あの人は、私と違う……隠してるけど、私には解かる)

ルクローラ王国側の部隊の一人は、ミレアナの正体に気付いていた。

パッと見では、自分と同じエルフかと思ってしまう。
ただ……戦闘が始まり、動きや魔力の量……魔法の質などを観察した限り、自分とは違うと断言出来た。

そして、その違いに小さくない絶望を覚えた。

(間違いなく、ハイ・エルフ!!)

種族的には、完全にエルフの上位互換となる存在。

それなりに技術やレベルに差がなければ、勝てなくて当然。
正体が解ってから、頭の中では敗北の二文字で埋め尽くされていく。

何故高貴な存在であるハイ・エルフが人間の国の戦争に参加しているのか解らない。
冷静に考えればいくつかの答えは見つかる筈だが、今はそんな冷静になれる状況ではない。

本音を零すのであれば、頭を地面に擦り付けてでも見逃してもらいたい。
今まで仲間と共に強敵へ挑んできた、紛れもない強者であるエルフの娘が絶望に値する存在……それが、今のミレアナだった。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...