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七百八十四話 昂る本能

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「ソウスケさん、見えてきましたね」

「あぁ、そうだな」

三人は五日も掛らず、最前線となる街へ到着。

周囲にはソウスケたちと同じく、戦争に参加する冒険者や、最前線を担当する兵士や騎士たちが多くいた。

当然だが、そんな周囲の者たちから、三人はいつも通り視線を集めていた。
その視線は学術都市で中盤から後半にかけて向けられていた優しさや尊敬などの類ではなく、戦闘者としての興味……または、ゲスな思いが込められていた。

(これから戦争だってのに、ナンパでもするつもりか? 逆に戦場では生存本能が爆発するのかもしれないけど、ぶっちゃけナンパは止めた方が良いと思うんだけどな)

ソウスケは今回の戦争で自分が死ぬとは一ミリも考えておらず、あまりそういった気分にはならない。
だが、他の者たちはそこまで大きく、絶対的な自身を持っていなかった。

思わず涎が出そうなほど美人なエルフの隣には、装備だけは一丁前の少年。
そいつを何とかしてしまえば……と考えた瞬間、強烈な殺気を飛ばされ、バカは腰を抜かす。

(ふん……やはり、モンスターも人間もそういった部分は変わらないということか)

自分が馬鹿な人間たちに対する防波堤ということを自覚しており、アホで間抜けな視線をパーティーメンバーに向ける輩に、片っ端から殺気をぶつけていく。

戦争に参加する……しかも最前線となれば、当然レベルが高い者たちが集まる。
そんな強者たちにとっても、ザハークの殺気は方が震えるほど強烈だった。

「全く、これから戦争が始まるというのに」

「結局男は皆お猿さんってことだ」

周囲の男たちほどではないが、ソウスケも少々昂りを感じていた。

一つ致しておきたい……と思わなくもないが、それをしてしまえば、言葉では言い表せない重要なやる気が消えてしまう気がした。

「確認しました。中へどうぞ」

到着した街の名は、ファード。

学術都市には劣るが、それなりに面積が広い街だが……住民たちの殆どは後方の街に避難している。
とはいえ、多くの戦闘者たちが集まっていることもあり、空気はそこまで重くない。

今回の戦争で必ず生きて帰れる保証はないが、それでも負けるつもりで最前線にやって来た者はいない。

「とりあえずギルドに行かないとな」

事前に確定していた配置。
学術都市から出発し、フォードに到着したことをギルドに伝えなければならない。

(おうおう、ここでも視線が突き刺さるな)

パーティー構成が珍しいため、そうなるのは仕方ない。

「ソウスケです」

「ミレアナです」

二人のギルドカードを受け取り、受付嬢は本人かどうかをチェックし、返却。

「確認いたしました。三日後の九時に、またギルドにいらしてください」

「分かりました」

集合日時と時間を聞き、ギルドから出ようとした二人だが……そうは許さないのが同業者。

「なぁ、この後何か用事でもあるか?」

「いえ、特にありませんよ」

こうなることは解っていた。
解っていた上で、ソウスケは予定があるとは答えなかった。

何故なら……自分に声を掛けてきた同業者には、自身を見下す……嫉妬や敵対心などの感情を持っていないから。

しかも、奥にある訓練場からは多くの戦闘音や声が聞こえる。
その状況から、つまりそういう事なのだと察することが出来る。

「ならよ、ちょっと俺と模擬戦でもしねぇか?」

「構いませんよ。どうせなら、うちの従魔も呼びましょうか」

数秒後、直ぐにザハークが現れた。

「呼んだか、ソウスケさん」

「あぁ、呼んだよ。どうやら、この人たちが俺たちと軽く汗を流したいらしくてさ」

「……なるほど。それは良い提案だな」

ザハークを呼んだからといって、声を掛けてきた同業者からの申し出を避けるつもりはない。

「それでは、訓練場に行きましょうか」

「話が早いルーキーだな」

彼のパーティーメンバーも移動し、数分後にはまた一つ、戦闘音が訓練場に追加される。
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