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七百七十三話 許さず、後悔し続ける

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防音個室があるレストランで食事を頼むソウスケたち。
特別にザハークも入店している。

普通なら全員表情が明るい筈なのだが、ザハークを除いてやや暗かった。

「……とりあえず、食べるか」

「そうですね」

注文したメニューが届き、夕食を食べ始める。

値段がそれなりであり、しっかりと味に反映されている。
美味い……美味いのだが、いつもみたいに頬が緩まない。

「まさか、生きてるうちに戦争に巻き込まれるとはな」

「中身は盗賊との戦いと変わらないかもしれませんけど、規模が違いますからね」

結果的に、国と国のバトルになる。
両国が冒険者だけではなく、兵士や騎士をどれだけ投入するか分からない。

だとしても、多くの死者が出ることは間違いない。

「ソウスケはさ、人を殺すことに慣れてるか?」

「まぁ、割と盗賊に狙われることが多いんで、結果的に慣れましたね」

盗賊から見ると、ソウスケたちはザハークさえ押さえれば、なんとか殺れるパーティーと認識されることが多い。

「そうか」

「べリウスさんは……あまり、慣れていない感じ、ですか?」

「いや、これでもBランクでベテランなんだ。多分、殺した数ならソウスケたちより多いと思う」

それは紛れもない事実であり、今も五体満足で生き残っているべリウスの強さを表している。

「でもな……殺しても問題無いクソ野郎以外を殺したことはないんだ」

「っ…………それは、自分です」

「私も、ありませんね」

「……」

ザハークはダンジョン内で生きてた時代を考えると、なんとも言えなかった。

「俺は、その時になって、容赦なく刃を振り下ろせるかが心配だ」

戦争になれば、敵国の冒険者や騎士とぶつかる。
死合いが進めば、敵が命乞いをすることもあるだろう。

その時点では、敵であることは間違いない。
ただ……立場上、戦争に参加しなければならない者はいる。
そういった者たちを、容赦なく斬れるか。

まだ戦争経験がないべリウスは、そこが参加するうえで自分の問題点だと自覚していた。

「……俺は、振り下ろさないと駄目だと思っています」

若輩者が何を言ってるんだ。
そう思われるかもしれないが、言葉を続ける。

「多分、俺の知人や友人たちも戦争に参加すると思います。そうなれば……自分が見逃そうとした敵が、その知人や友人を殺すかもしれません」

あの時あいつを殺しておけば、あいつは死ななかったかもしれない。

ソウスケとしては、それが一番恐ろしく感じる。

「それに、全員が良心を持っているとは限りません。逃がそうと決め、眼を逸らした瞬間に、背中を刺されることがないとは言い切れない」

騙し打ち……戦場に立てば、どんな手段も卑怯とは言えない。

ただ、良心が強い者ほど、そういった手に騙されやすい。
通常時では騙されずとも、戦争で精神が擦り減った状態となれば、見逃してしまうかもしれない。

その判断が、後々自分たちを奈落の底に落とす可能性は低くない。
寧ろ高いだろう。

「そうだな……うん、そうだ。そうなれば、後悔しても後悔しきれなくなるな」

「一生、自分のその甘さを恨みながら生き続けるかと」

「自分を恨み続ける、か……辛い人生だろうな」

自分を許せない日々が、死ぬまで続く。
自分は幸せになってはいけないとすら思ってしまう。

戦争で失敗しながら生きながらえた者の中には、吹っ切れない者が多い。

「その人生を送らない為にも……まだあいつらの先輩であり続ける為にも、必死に戦いましょう」

「……ったく、後輩に励まされちゃ、世話ないな」

まだ、完全に意識を塗り替えられてはいない。
それでも先程までと比べて、近々起きるであろう戦争に対しての考えは変わった。

「ソウスケさん、辛くなったら直ぐに言ってくれ。俺が全力で蹴散らしてやる」

ザハークの言葉が、励まし半分と戦闘欲半分だと直ぐに解り、ソウスケは小さく笑った。
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