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七百五十三話 動きは獣でも

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「ソウスケさん、こいつは俺が貰っても良いか?」

「あぁ、勿論。好きなようにやってくれ」

三人が遭遇したモンスターは……ヴァルガング。
青色の毛を持つ巨大な狼。

ランクはBと、ソウスケが上級者向けダンジョンで戦ったガルムには及ばないものの、強敵であることに変わりはない。

「それじゃ、俺らは周囲の警戒しておこう」

「了解です」

ザハークが一歩前に出て、俺がお前と戦う!!! という意を示しても、直ぐに激突はせず膠着状態が続いた。

しかし、意を決し……先にヴァルガングが動いた。

「良い殺気だ!!!」

ザハークを一目で強敵だと見抜き、既に身体強化と疾風を併用している。

同じく、ザハークもヴァルガングが並ではないと本能で解っており、身体強化と剛腕のスキルを同時使用。

(……現状だと、ヴァルガングの方が少しだけスピードが勝ってるか?)

まだザハークが本気中の本気を出していないとはいえ、確かにヴァルガングは速さでザハークを上回っていた。

だが、それだけでザハークに傷を付けられるかは、否という話。

ヴァルガングも体に魔力を纏って更に強化しているが、それはザハークも同じ。
そして魔力操作に関してはザハークの方に分があり、危ない攻撃に関しては魔力の強度を上げ、きっちりとガードしている。

(ふっふっふ、これだこれ!!!)

クリムゾンリビングナイトや、ジェネラルとの戦闘も非常に楽しかった。
心の底から死合いを楽しめていたが、ヴァルガングの様に野性全開放で襲い掛かってくる相手との戦いも心が躍る。

最初はどっしりとした構えで戦っていたザハークだが、次第に体勢が低くなり……徐々に構えが四足歩行に近づいていく。

(四つ足歩行の相手には、それに近い動きで対応する、か。というか、既に様になりつつある……あぁいう戦い方が得意そうな獣人族の人が今の光景を見たら、思いっきり嫉妬しそうだな)

そんなことを考えながらも、ソウスケは周囲から他のモンスターが寄ってこないか……先日の様に、自分たちに嫌がらせをしてくるような連中がいないか、見張りにも意識を十分割いている。

ヴァルガングはBランクモンスターであるため、その素材を売れば大金が手に入る。
それ目的も含めて、ソウスケたちに嫌がらせ行為をしようとするやからが現れてもおかしくない。

(というか、出来れば今はそういった連中は現れないでほしいな……仮に戦いを邪魔されるような結果になれば、ザハークが怒りを抑えきれるかどうか……運良くバルドセンチネルがゴミ処理してくれれば良いけど、とりあえず殺すのだけは控えてほしいな)

骨の一本や二本を折ることに関しては構わないが、ダンジョンではないので、死体にしてしまうのは個人的によろしくないと思っている。

(獣と獣の戦いですね……技術はその域を遥かに超えていますが)

オーガの希少種であるザハークが大きな技術を持っているのは当然として、死合い中である対戦相手のヴァルガングも並ではない技術力を有している。

毛の色の通り、水の魔力を操るヴァルガングは体に纏って鋭利な攻撃を繰り出すだけではなく、高速で動き回りながら厭らしいタイミングや角度から攻撃魔法を発動、

地面を全力で踏みしめ、地面からの攻撃も可能。

他さないな攻撃で攻め続けるが……ザハークも水の魔力を操るのは大得意。

獣の様な動きで戦いつつも、精細な技術が鈍ることはなく、ヴァルガングの厭らしい攻撃に全て対処していく。
見た目よりも繊細で嫌らしい攻撃が得意なヴァルガングだが、ザハークに全くダメージを与えられない状況にイラつき始め……遂に大技を繰り出した。

(それは予想外だ!!!)

ヴァルガングは爪に水の魔力を集中させ……一本の鋭く美しい刃を生み出し、ザハークに斬りかかった。

ミスリルであろうとも斬り裂けそうな斬撃に対し、ザハークは脚力強化も使用し、体を回転させながら跳んで回避。

中々傷が付かない地面を切り裂く良質な一撃だったが、最後の最後に回転の勢いが加わったザハークの蹴りを頭に叩き込まれ、頭蓋骨と一緒に脳が砕けた。
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