転移したらダンジョンの下層だった

七百三十六話 絶望的、ではあるが

ザハークの一撃がクリムゾンリビングナイトに決まり、後方へ大きく吹き飛ばされた。

（……今のは、良い一撃だった］

自分でもそう思える程、力に任せた一撃ではなく、技術も重なった一撃。
しかし、クリムゾンリビングナイトの判断力が功をなし、魔石がある部分に魔力を集め、絶命は免れた。

だが……肥大は甚大であり、完全に先程までのスピードはなくなった。

「良い戦いだった」

そう呟き、ザハークは止めを刺そうとクリムゾンリビングナイトの元に歩を進めるが……ここで、ある変化が起こった。

（ぬっ！？　この感じは……まさか）

己が体験したことがあるからこそ、今目の前のクリムゾンリビングナイトに何が起こっているのか理解出来る。

そう……紅騎士は、存在進化を果たし……ジェネラルへと進化した。
ランクこそAランクと変わらないが、存在進化したお陰で傷は全快。
魔力も元に戻った。

「クリムゾンリビングジェネラルか」

ボスモンスターであるクリムゾンリビングナイトが存在進化する。
この現象は、しっかりと冒険者ギルドが冒険者たちに売るダンジョンの情報に記載されている。

ただ、こういった現象が起こることは今まで殆どなかった。
存在進化しかけることはあったが、それでも優秀な冒険者たちは、存在進化中の動けない隙を逃すわけがなく、完全に止めを刺して存在進化を防いできた。

しかし、この場にいるのは戦闘大好きな希少種のオーガ……ザハーク。
敵が存在進化を果たす……そんな貴重な光景を潰すわけがなく、じっくり進化が終わるまで待った。

「ふふ……ひとまず、俺の魔力とスタミナを削ろうという考えか」

クリムゾンリビングナイトがジェネラルに存在進化すると、召喚というスキルを習得する。

魔力を消費し、自分と同系統のモンスターであるリビング系のモンスターを大量召喚が可能。
ナイトからジェネラルに進化したことで、魔力が全回復……どこらか、魔力量の限界値を突破している。

その影響もあり、今のクリムゾンリビングにとっては、配下を大量召喚したところで痛くもかゆくもない。

召喚されたリビングナイトの数は五十を超えており、ジェネラルの将軍の威光というスキルのお陰で、召喚されたリビングナイトたちの新た能力は強化されている。

Bランク、Aランクの冒険者たちが集まっていたとしても、絶体絶命、最悪の状況と言える。
そんな状況の中、ソウスケとミレアナにとっては当然な光景……ザハークは、満面の笑みを浮かべていた。

「いくぞ！！！！」

強化されたリビングナイトたちが襲い掛かる前に、ザハークの方から仕掛けた。
既に身体強化系のスキルを使用しており、ロングソードを使いながら体術、攻撃魔法も併用。

集団を潰すために特化した戦闘スタイルに変更。

ジェネラルは先程までの戦いを通じて、召喚した配下たちを残りの二人に使っている余裕はないと判断し、全てザハークを倒すための戦力として投入。

「ヤバいな、ミレアナ」

「……そうですね。常識的に考えると、ヤバい状況です」

リビングナイトのランクはＣ。
そんなモンスターが大量に召喚されただけでも絶望だが、将軍の威光によって強化されたリビングナイトたちは、身体能力だけであればＢランク冒険者と同等。

そんなモンスターが一気に五十体以上召喚され、ジェネラルはまだまだ配下を召喚することが出来る。

（リビングナイト一体一体は、Ｂランクの冒険者なら技術的に上回ってるだろうから、倒せることには倒せるだろうけど……問題はその数だろうな）

一度の召喚で、五十以上の数を召喚できる。
それを行っても、へばった様子は一切ない。

Ａランクのモンスターが万全以上の状態になったというだけでも絶望なのに、更に大量の戦力が導入された。
普通の冒険者なら死を覚悟する場面だが、ザハークは非常に楽しそうな顔で召喚されたリビングナイトたちを次々の葬っていた。