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六百五十三話 やはり羨ましい

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上級者向けダンジョンでターリアから依頼された武器を造る為の素材を無事手に入れ、地上に戻った翌日からは早速火の魔剣と短刀の制作作業を始めていた。

勿論、ソウスケの隣ではザハークも一緒に上級者向けダンジョンで手に入れた素材を使って武器の制作を行っている。
ミレアナは杖を造ってほしい生徒たちから依頼が溜まっているので、宿でそちらの制作に追われていた。

「ふぅ~~~~~。ちょっと休憩するか」

朝から鍛冶場に籠り、現在の時間は昼過ぎ。
作業に熱中していたソウスケの腹はそろそろ限界。

「ザハーク、そろそろ昼飯を食べないか?」

「……後少しだけ待ってくれ」

「了解」

後少しが本当に後少しなのかは分からないが、とりあえずソウスケはザハークの作業が終わるのを待つことにした。

すると、扉からノックの音が聞こえた。

「? 鍛冶ギルドの職員か??」

職員が何か用事を伝えにきたのか、それともミレアナが必要な材料があって取りに来たのか……どちらなのか分からないが、一先ず鍛冶場に来たお客さんを迎えることに決めた。

「……えっと、どちらさんで」

扉の前に立っていた人物はソウスケが全く知らない人物だった。

ただ……とにかくイケメンだ!!! という印象を受けた。

(なんなんだこのイケメンは? とりあえず……貴族だよな?? こう、観に纏うオーラが明らかに貴族だ。もしかして、学園の生徒か? でも制服を着てないよな)

制服を着てないだけではなく、そもそも学生という容姿ではない。

(俺様系ではなく、クール系のイケメンだな……羨ましい)

相変わらず自分の容姿に自信がないソウスケにとって、目の前の男の容姿……と、一歩奥に立っている女性のハイレベルな容姿は非常に羨ましかった。

「私はフルード・ガルザック。氷結の鋼牙というクランのトップの者だ」

「側近のリーシャです」

「本日は下の者が君の仲間に迷惑を掛けた謝罪をしに来させてもらった」

「あ、あぁ……その件ですね。と、とりあえず中へどうぞ」

「失礼する」

鍛冶場にも客間があり、そこに二人を通した。
貴族が呑むような紅茶は用意していないので、ソウスケは買い溜めている果実水を取り出した。

「ッ!!」

コップに淹れられた果実水を飲み、二人は驚愕の表情を浮かべる。

(……全く温くない。今、私の様に氷の魔力を使ったか?)

氷魔法のスキルを持つ者が、魔力操作で飲み物の温度を変化する。
これは割と知られた技術だが、フルードの眼にはソウスケがその魔力操作を行った様には見えなかった。

(ということは、亜空間に入っている時から冷たいまま……そんなことがあるのか?)

ソウスケがいつ、果実水を買ったという細かい時間は分からない。
ただ、キンキンに冷えた果実水を買ったとしても、数時間も経てば温くなってしまうという常識は知っている。

(つまり、彼の空間収納は時の流れが異常に遅い……もしくは止まっているということか!?)

元は貴族だが、冒険者として活動するフルードとしては、是非とも仲間として引き入れたいという考えが頭の中に浮かんだ。

しかし、直ぐに自分たちと目の前の少年との関係を思い出し、その考えを断念する。

「まずは謝罪させてほしい。私の仲間が君たちに大変申し訳ないことをした」

フルードとリーシャはテーブルに額が付くギリギリのところまで頭を下げ、心の底から謝罪の言葉を述べた。

「ギリス・アルバ―グルの件についてですよね。えっと……ミレアナの方には既に行きましたか?」

「あぁ、君達が泊っている宿に行き、謝罪させてもらった。そしてリーダーであるソウスケ君は何処にいるのかと尋ねると、鍛冶ギルドの鍛冶場にいると教えてもらった」

「あ、そうなんですね」

仲間に迷惑を掛けた人物のトップが既に、迷惑を掛けられた仲間に謝罪を行っている。
それを知れれば、ソウスケとしては特に言うことはない。

というより、わざわざ自分のところに来て謝罪しなくても良いのにと思っていた。
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