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五百四十六話 二つともパッカーンと

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「それで、どうだった。うちの生徒たちは」

「……将来的にBランクやAランクになりそうな子はいると思った。まっ、確実ではないけどな」

ソウスケたちには遠く及ばないが、将来性を感じる生徒はそれなりにいた。

「そうですね。跳ねっ返りが多数いましたが、実力差を見せれば素直でしたし……これから多くの実戦を積めば上に上がれるでしょう」

「将来的に俺と殴り合えそうな奴もいたな。先が楽しみだ」

ザハークが生徒を褒めた。
それはダイアス的に嬉しかったが、ザハークとマジな模擬戦は生徒にとって不幸か罰でしかないだろうと思ってしまった。

(ザハークが本気で戦った様子は見たことないが、確かAランクのモンスターをソロで倒したって言ってたな……いくらうちの生徒が強くなっても、本気パンチを食らったあっさり吹き飛ばされて骨をバキバキに砕かれそうだな)

現時点で生徒たちよりもダイアスの方が強いが、それなりにマジの模擬戦をザハークと行いたいとは思えなかった。

「俺みたいな例外と戦えたんだし、この先見た目だけで相手の実力を判断するような馬鹿な真似はしないだろうし……全員がそれなりに上のところまで行けそうだと思うけどな」

「そのことに関しては本当に感謝している。教師としての威厳を保つ為というのもあって、教師はそれなりに見た目が強い人を選んでるからな。ただ、世の中にはソウスケ君の様な例外が稀にいる……俺が知っている中で、ドワーフと巨人族のハーフの冒険者がいるんだが、見た目はまぁまぁ小さいんだよ」

「遺伝的にドワーフの血が勝ってしまったってことか」

「……一応な。ただ、肉体的な強さはきっちり巨人族の血を受け継いでたんだ。巨人族の筋肉がドワーフサイズまで縮まったって感じなんだが……想像できるか?」

「……なんとなくできる。えっ、でもそれって……かなりエグイ力にならないか」

巨人族の筋肉がドワーフサイズまで圧縮された。
普通に考えれば、尋常ではない筋繊維密度になる。

実際にそうなった訳ではないが、同じドワーフと巨人族のハーフであっても同等の身体能力は手に入らない強さを持っている。

そしてドワーフの力強さも受け継いでいるので、腕力は容易に他種族の力自慢を圧倒出来る。

「その人は見た目がコンプレックスで、背の低さをバカにされるのを嫌ってるんだ」

「そりゃそうだろうな……でも、そういうのってからかいやすいコンプレックスだよな」

「まぁな。だから本当に仲が良い冒険者とかは偶にからかってりしてるんだが、全く面識がないルーキーや冒険者が悪意を持って弄るとな……マジで容赦がない」

どう容赦がないのか、ダイアスの表情を見れば容易に想像出来た。

(ドワーフと巨人族の腕力を兼ね備えた力のハイブリットみたいな存在だろ……どこ殴られても一発でボキ、バキってやられるよな)

肉弾戦にはそこそこ自信があるソウスケだが、思わず体が震えてしまった。

「本気で殴ったら絶対に体に風穴が空いたり、体がぶった切られるから本気でやってはいないんだろうけど、とりあえず骨は折られる」

「……うん、予想通りだ」

「ただなぁ……運が悪いと、男は股間に打撃をぶち込まれる。そうなれば……絶対に玉が二つとも潰れるんだよ」

ソウスケとザハークは一気に股間が寒くなった。

「な、なるほど……それは冒険者として、男として終わってしまうな」

「容赦ない一撃が悪いと思わないが……少しだけ相手に同情する」

「だよな。治癒魔法を使って治せればいいんだが……基本的に周りはその人の味方だからな。ギルドもその人の実力を知っているから、やらかしてしまった周りに味方はいなくなる。仲間に腕が良い治癒師がいないなら、教会に行って高い金を払って治してもらうしか道はない」

そのハーフを下手に弄ればボコボコにされるのは必然。
そういった話が広まっていても、犠牲者が年々減らないのは……自信過剰な馬鹿が減らないからだ。

(……ちょっとはランクを上げようかなと最近思い始めたけど、見た目がこのままだとどちらにしろ厄介で馬鹿な連中に絡まれるのか?)

ダイアスのとあるハーフ冒険者の話を聞き、冒険者として上がりかけていた向上心が折れかけた。
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