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五百十六話 それは不謹慎

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「ふぅーーーー……まっ、こんなもんだよな」

「であろうな。上が強ければ、外にいた下っ端もある程度の強さを持っている筈だ」

殆ど盗賊団を壊滅させたソウスケとザハーク。
そして二人の目の前には既に戦闘不能の状態まで追い込まれた盗賊団の頭がいた。

「な、なんなんだよてめぇら!!!」

「なんなんだよって言われてもなぁ……冒険者、としか言いようがないな」

「その冒険者の従魔だ。それ以外に何に見えるというのだ?」

違う、それは解っている。
ただ疑問が尽きないのだ。

何故自分達のアジトを襲ってきたのか、何故二人だけで襲い掛かってきたのか。

そして……何故自分達はたった二人に壊滅させられたのか。
普通に考えれば解かることだ。

二人は冒険者とその従魔だから色々と邪魔者である盗賊団を潰す。
そして二人は自分達だけで盗賊団を潰せるだけの実力があるから、盗賊団を潰そうと思ってそれを実行した。

ソウスケとザハークにはそれを実行するだけの実力がある。
それで全ての疑問を片付けられる……だが、そう簡単に現状が理解出来ないからこそ混乱している。

「二人で乗り込むとか……ば、バカだろ!!!!!」

「……ぶっ、はっはっは!!!! 一般的に考えれば馬鹿かもしれないな。でも……こうしてお前らを全滅にまで追い込んでるじゃん」

「そもそも俺達の実力を考えればお前達ていどの実力しかない盗賊団を潰すなど、造作もない作業だ。あまり自分達の実力を驕らないことだな……お前に次は無いがな」

そう……いくら喚いたところで頭が生かされることはない。
街まで持って帰れば懸賞金が手に入る。だが、金に困っていない二人はそんな面倒なことをする必要はない。

「そういう訳だ。自分が今から殺されるかもしれないって現実を受け入れられないかもしれないが、お前はここで死ぬ……どうせ今まで大勢の人達を殺してきたんだろ。なら、自分がこの先殺されるかもしれないって……多少は考えたことあるだろ?」

無い……全く無かった。

今まで大体が上手くいっていた。
盗賊団も結成当時と比べて徐々に大きくなってきていた。

自分の力が実戦を重ねるごとに高まっているのを感じていた。
自分がこの世で一番強いとまでは驕っていない。

だが、大抵の敵はなんとかなると思っていたのだ……だが、急に絶望が襲ってきた。
そして今、リアルに自分に死が近づいてきているのを感じる。

「そんじゃ、これで終わりだ」

「まっ「待たないよ」……」

放たれた魔力の斬撃を防ぐことは出来ず、頭の意識はそこで完全に途切れた。

「盗賊団というのは全員が自分達が死にかもしれないと考えたことがないのか?」

「さぁ……どうだろうな。基本的には数が有利な状態で戦っていたんだ……結果的に自分達が勝つとは思ってそうだな。少しはその過程で自分達が死ぬかもしれないって思ってるかもしれないけど」

「なるほど……つまり基本的にはバカばかりという事だな」

「まっ、大半の奴らは難しいことは考えずに生きてるだろうな」

深く考えることが出来る者ならば、そもそも盗賊として生きていこうとは思わない。
もっと賢い選択をする……それが出来ないからこそ、考えることを放棄して誰かの下に就き、楽して稼ごうとするのだ。

「さて、一応死体は燃やして灰にしておこないとな」

「それなら俺はこいつらが貯め込んでいたお宝を回収してくる。あまり期待は出来なさそうだがな」

ソウスケは死体を一か所に纏めて燃やし尽くし文字通り灰にし、そしてザハークは盗賊達が今まで商人や冒険者達から奪った物を回収した。

だが、お宝の中にはザハークの予想通り、あまり大した物はなかった。

(やはりダンジョンに潜る方がよっぽど刺激的だな)

同じく自分を殺す気で襲い掛かってくるが、ダンジョンのモンスターよりも盗賊達の方がザハークにビビッて弱気になるのが速い。

(もっと手応えがある奴らなら……そう考えるのは他の者達に失礼だな)

実力が高い盗賊達がいれば、それだけ多くの人達が被害に合う。
流石にその様な存在がいることを願うのは不謹慎だと思い、首を横に振ってソウスケの元へと戻った。
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