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三百八十七話 筋肉が緩かったので

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(あぁ~~あ。後向いちゃったよ)

自分に背を向けてしまう。それはソウスケが持つ短剣の性能を発揮するのに最適な的と言える状態だった。
知ってか知らずか、コボルトは完全に背を向けてしまう。

そこから反撃を行うのか? 否。
完全に逃げるつもりでいる。

逃げ切れるかどうかの話ではない。
コボルトの中の野生が、本能が、細胞がコボルト自身に逃げろと命令した。
コボルトはその命令に従っただけなので悪いとは言えない。そもそもな話、戦いの最中に逃げるという行為は別に悪では無い。

しかしソウスケの感想は悪手。その一言だった。

(逃げるにしても、一直線に逃げちゃダメでしょ)

短剣の刃を地面と平行にし、コボルトの後頭部へと狙いを定める。
そして少しだけ腕を引き……伸ばす!!!!

その突きと同時に柄についているスイッチも押す。

その場で付いただけでは到底コボルトの後頭部に刺さる訳が無く、掠る事も無い。
しかしソウスケが狙いを定めて短剣を突き終えた瞬間、刃を持つ武器の中で重要な……最重要な部分である刃が飛び出した。

スイッチを押すだけで十分な距離をハイスピードで飛ぶのだが、それに加えてソウスケの突きが更にスピードを加速させてコボルトの後頭部に迫る。

当然、その刃にコボルトは気付かない。
刃が後頭部に突き刺さる直後、ようやく耳に空を切る音が微かに聞こえた。

しかし何が自分の後ろに飛んで来ているのかも分からず、コボルトの後頭部に刃はグサリと深く刺さった。

刃に脳をやられたコボルトはそのまま走る、走るが徐々に前のめりになって地面に頭から激突。
そしてそのまま動かなくなる。

「……今の、突かなくてもいけとた思うか?」

「どうだろうな……後頭部に刃を突き立てる、その点においては問題無かったんじゃないか。その一撃では倒せずとも、刃を変えてもう一度狙えばそれで終わりだ」

「そうか。まぁ、今回に関しては防御が甘々だったから上手くいったってのもあるだろうな」

攻撃が来ると分かればそれに身構える。体のどこかで攻撃を受けようと思えば自然と筋肉が収縮する。一部の達人を除いて。

「スペツナズ・ナイフ……一応使えるっちゃ使えるか」

刃が無くなった柄を見ながらアイテムボックスから新しい刃を取り出し、刃の差込口に挿入。

「虚を付ける武器ではあるが、刃の取り換えに関しては金が掛かるか」

「寧ろ刃だけの交換済むと思えば費用が安くなるんじゃないか?」

「……どうだろうな。浪費癖が付いて結果的に費用が多く掛かる気がする」

一般の冒険者向けに売る気は無いのだが、そうしてか買い手の気持ちを考えてしまうソウスケ。

「とりあえず、刃に関しては大量に予備があるのだから気にする必要は無いだろ」

「それもそうだな」

ソウスケのアイテムボックスの中には大量のモンスターの刃や鉱石が入っているので、替えの刃を幾らでも用意出来る。

「俺とミレアナに関しては短剣で十分だが、ザハークの場合は長剣の方が良いか?」

「そう、だな。短剣も使えないことも無いが……確かに長剣の方が良いな」

「そうか。もしかして大剣バージョンの方が良かったか?」

「それは……そうかもしれないな。虚を突くには十分過ぎる。だが、耐久力が低くなるのではないか」

ザハークの言葉にソウスケはそれはそうだと思い、スペツナズ・ナイフの大剣バージョンは無しだなと判断した。

(いや、でもザハークの言う通り虚を突くには十分だし……一応造ってみるか)

ギッミクの無い武器と比べて確かに耐久力が低いが、それでも数度ほどしか斬り合えない程脆くは無い。

(ただ……大剣とか長剣だと刃の交換に通常のスペツナズ・ナイフと比べてちょっと時間掛かるよな。でもホルスターに刃だけしまえば……それだと進撃〇巨人のあれみたいになるな。てか、大剣バージョンは流石にホルスターが大き過ぎて邪魔だな)

発想は悪くないと思ったので、とりあえず頭の片隅にしまう。

「……あっ」

「何か良いアイデアでも浮かんだのか?」

「おう! まぁ……悪くないアイデアだと思う。今直ぐ帰って造る、てのは時間的に勿体ないからもうちょい試し切りをしようと思う」

「あぁ、まだまだ試したい武器があるからな。どんどん試していこう」
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