上 下
376 / 1,043

三百七十五話 結果どっちも一般的では無い

しおりを挟む
「ものっ凄い速さで去って行ったな」

「一般冒険者には刺激が強い戦いだったんじゃないでしょうか」

「……ザハークがアイアンゴーレムの亜種を一撃で倒したのがか?」

「きっとそれだけではないと思いますよ」

耳が良いミレアナには後ろで自分たちの戦いを見ていた冒険者達の会話をしっかりと聞き取っていた。

(ハイ・エルフの中ではそこまで珍しい芸当ではないと思うのですが、魔法に特化している種族と人族を比べるのは良くないですね)

ソウスケは自身の芸当に何も特別さは感じておらず、ミレアナもそこまで驚く事ではないと思っていた。
ザハークも現在練習中であり、完全に操るまでそこまで時間が掛からないところまで来ている。

(初級魔法を自由自在に操る努力を重ねているか。そんな事を訓練するよりスキルレベルを上げて強い攻撃魔法を覚えた方が得だと考える方が殆どでしょうから、そういった行動を始める人がいないのでしょうね)


確かに威力の高い攻撃魔法を覚えれば、今よりも強いモンスターを倒せるようになるかもしれない。
しかしそれは敵対する者と一人で戦う場合だけだろう。

多数対多数で戦うなら決定打を与えるのは自分でなくてはならない理由にならない。
寧ろ変則的に動く初級魔法の方が相手の動きを妨害し、決定打を与えるチャンスになるかもしれない。

「さて、こいつを全部入れて今日はもう少しだけ採掘したら帰るとするか」

「わかりました。それとソウスケさん、同業者に私達がモンスターと戦う場面を見られましたが大丈夫ですか?」

一般的に見ればルーキーの戦い方では無い。
ソウスケ達の顔が広まってしまう要因になるかもしれない。

「あっ……まぁ仕方無いな。確かに倒し方は少々一般的ではなかったかもしれないが、一番衝撃的だったのはアイアンゴーレムの亜種をザハークが正拳突き一発で倒してしまった事の筈だ!!! だから特に問題は無い」

オーガであるザハークがアイアンゴーレムの亜種を一撃で倒してしまう。
これ自体はそこまで珍しい内容ではなく、条件さえ合えば他のオーガも同じ事が出来る。

だが、実際に目にする衝撃は半端なものでは無い。
なので自分とミレアナのアイアンゴーレムの倒し方はそこまで注目されないだろうというのがソウスケが出した結論だった。

しかし、それを注目するかしないかはソウスケが決める事ではない。
なので今後ソウスケの噂がどのように広まるかは……ソウスケもミレアナもザハークも予想出来ない。

採掘を終え、受けていた採掘依頼を完了する為にソウスケ達は冒険者ギルドへと向かう。
時刻は丁度夕方。仕事を終えた冒険者達が一杯飲みながら騒ぎ出す時間だ。

ギルドの中の酒場では既に多くの冒険者達が酒を飲んで今日の成果を語り合う。
どんなモンスターを倒したのか、それとも予想外のモンスターと出会って命からがら逃げて来たのか。
目的の鉱石が見つかって大金が入ったのか、採掘途中でモンスターに襲われて逃してしまった。

成功談があれば失敗談もある。
だがそんな会話の中で本気で同業者を馬鹿にする者はいない。

そんなベテランも新人も関係なく飲んで食う中、二人の冒険者が入ってきた事で一か所、二か所。
一つのパーティーが二人を見つけると次第に会話の声が小さくなる。

会話の内容は一気に変わり、少年と美女エルフの冒険者の話だ。

今日二人がアイアンゴーレムを倒した方法と従魔であるオーガがアイアンゴーレムの亜種を一撃で倒した話は、既に冒険者の間で広まっていた。

ただし全ての冒険者がその噂を信じている訳では無い。
特に見た目が完全にルーキーである少年の冒険者に関しては九割方信じられていない。

しかしそんな事は当の本人達には全く関係が無く、二人は視線を気にせずに受付へと向かう。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...