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単純な理由

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「ティール君はティール君で、ただ優等生だったていうだけじゃなくて、一応原動力になる理由があったんだね」

「まぁ、その……一応、あるにはありました」

「……もし良かったら、その原動力を教えてくれないかな」

ティールと散歩をしていたジェンは、少し踏み込んだ質問をした。

知り合ってからまだそれほどの月日は経っておらず、同じクランに所属しているわけではないため……辛うじて先輩と後輩と言える否か程度の関係性。

ジェンとしては、聞けたらラッキー程度の質問であった。

対して……ティールはジェンの事を、それなりに信用出来る人物と認識している。
やらかした後輩の為に動ける先輩というのは、ティールから見て人間ができていると、そう思える相手。

とはいえ、当時の強くなる為の原動力に関しては、まだ……まだ、今のティールには人に話すのを割と恥ずかしいと感じてしまう。

「………………ジェンさんが、信用出来る鍛冶師とか紹介してくれるなら、良いですよ」

「おっ……ふふ、解ったよ。僕がいつも頼りにさせてもらってる鍛冶師を紹介するよ」

「それじゃあ、今日その鍛冶師さんの工房に連れてってください」

「勿論」

「……えっとですね。俺……物凄いガキの頃に…………あれっす、失恋したんすよ」

若干恥ずかしさを感じながらも、ティールは切っ掛けとなった出来事を口にした。

「なる、ほど……それは、何歳ぐらいの話かな」

「多分、三歳ぐらいの話っす」

失恋した当時の年齢が三歳と聞き、ジェンは零れそうになった笑みを咄嗟に抑えた。

「それは、あれだね。随分とこう……ませてたね」

「いや、別に本当にガキだったんで、大人になったら結婚したいとかそこまで爆発してた訳じゃないっすよ。それに、実は告白もしてないんですよ」

「ほぅ? でも、ティール君的には、失恋したんだよね?」

「はい。当時ガキもガキだったんですけど、好きだった女の子が自分以外の男と話していて、その時男に向けてる表情というか眼というか……そういうのが、圧倒的に違うなって感じたんですよ」

「それは……確認するまでもなかった、ってところなのかな」

「えぇ。その男は同年代の中だと一番カッコ良くて、剣技のギフトを授かっていて……それなりに強かったと思います」

基本的にティールは二人の師匠か、一人で行動してることが殆どだったため、例の男の子……レントが実際に戦う姿をあまり見たことがなかった。

ただ、時折姿はチラッと見る機会があり、同じくティールの師でもあるジンに稽古を付けてもらっている子供たちの中でも、頭一つか二つ抜けている雰囲気を感じた。

「なるほど。けど、それなりにっていう事は、ティール君よりは強くなかったんだろ」

「……多分、そうですね。でも、子供の時のカッコ良さは当然健在で、村に住んでいる人との知人が訪れて、街の冒険者学園に入学出来るレベルに達している子がいたら試験を受けられるんですけど、その……選抜メンバー? にも選ばれて、初恋の子もそのメンバーの中に選ばれました」

「彼は彼で、順当に階段を上っているってわけか」

「はい……って、すいません。ちょっと話がズレましたね。原動力に関してなんですけど、物凄く単純で顔がカッコ良くないなら、強くなればモテるようになるんじゃないかって……好きな人が出来た時、強ければ上手くいくんじゃないかって思ったんですよ」

「強くなればモテる、か…………そうだね。それは確かに、一つの真理だ」

子供時代のティールの思いをバカにしない為に適当こいてるのではなく、ティールよりも倍ほどの人生を歩んできたジェンからしても、その考えは本当に一つの真理であった。

「そう言ってもらえると助かると言いますか、救われると言いますか……とりあえず、それが俺のガキの頃の原動力です」

なんとも子供らしく純粋で単純な理由だが、それが嘘偽りないティールの強くなるための原動力だった。
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