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浅はかな考え
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「ふふ、この話を聞けば、うちの若い者たちも早く下に目指そうと熱くなりそうだね」
「ヒツギたちですか? …………焦ったら死ぬと思うので、今はまだ止めておいた方が良いと思います」
ジェンの後輩たちに対して非常に失礼な物言いではあるが、ジェンはティールとヒツギたちの衝突を知っているため、特にそれを聞いて不機嫌になることはなかった。
「ふっふっふ、そうだね。三十一階層からは、気を引き締めていても危ない時は本当に危ないからね」
「モンスターの強さも上がりますし、割と平気でBランクモンスターも出現しますからね」
エルダートレントに上位種のオーガ、サラマンダーに魔の風精霊シルヴィーナにアドバースコング。
他にも出現するBランクモンスターは存在し、対策を取ろうにもその数が多く、結果として武器やマジックアイテム、戦法に頼るよりも各々の個人戦闘力を上げる方がよっぽど安全性が増す。
「ヒツギなら……いや、無事にソロで討伐ってのは難しいか」
「そうだね。勝算はあると思うけど、ティール君たちの様になるべく死のリスクが低い状態で戦うには、まだまだ足りないね……僕としては、ティール君があの子たちに稽古でも付けてくれると嬉しいんだけどね」
「嫌ですよ。というか、ヒツギはともかく他の連中たちは俺から教わるなんて嫌でしょう……って言うか、そこら辺に関しては俺のことを過大評価してるかと」
強い。
戦闘力に関しては同世代の中に並ぶ者はおらず、冒険者全体で見ても自分が強いことはティール自身も自覚している。
だが、それでも探索力や指導力に関しては、まだまだ未熟。
それがティールの自己評価であり、そもそもティールの年齢を考えれば、それが当然であった。
「そうかい?」
「そうですよ。俺はまだ二十歳にもなってないんですよ」
「ティール君ぐらいの存在になると、年齢は関係無いと思うけどね……まぁ、本当のところは、ティール君ほどの年齢であれだけの戦闘力を持っている。だからこそ、あの子たちに指導をしてほしいなと思うところはある」
「つまり、俺という嫌っている人間から教えられることで、あいつらに発破をかけようとしてるってことですか?」
その言葉を聞いて、ジェンは満足気な笑みを浮かべた。
(やっぱり、この子は思考力が普通じゃない。直ぐに僕たち先輩、上司の立場になって物事を考えられる……本人は否定するだろうけど、リーダーとしての才もありそうだね)
ジェンは、完全にティールを紫獅の誓いに勧誘することは無理だと諦めている。
ただ、この先他のクラン……貴族や騎士団がティールを欲したとしても、その思いを「本人達が興味ないって言ってるのに勧誘するなんて馬鹿だね」と簡単に否定は出来ない。
ティールという人間には、それだけの価値がある。
「負の感情が、人を奮い立たせることもあるからね」
「なるほど………………そういう考え方というか、成長の方向もあるんですね」
「ティール君は、あまりそういう感覚には身に覚えがない感じかな」
「です、ね。基本的に師と呼べる人たちに指導してもらう時以外は、一人で訓練したり狩りをしてる時が殆どだったので…………あっ」
「ん?」
「いや、まぁ……そう、ですね…………若干、身に覚えが、ありますね」
「へぇ~~~~~~。ティール君でも、そういう感覚を体験したことがあるんだね」
気を遣って、わざわざそれっぽい経験があるフリをした……様には見えず、ジェンはその事実にやや驚いた。
(元々強くなろうと思った目的って、ミレットがレントのことに好意を寄せてるって気付いて、強くなればモテるって思ったからだもんな)
今思い返すと、なんとも浅はかな発想だと思ってしまう。
ただ、当時のティールはまだ五歳にもなっておらず、そんな極端な考えを持ってしまうのも無理はなかった。
「ヒツギたちですか? …………焦ったら死ぬと思うので、今はまだ止めておいた方が良いと思います」
ジェンの後輩たちに対して非常に失礼な物言いではあるが、ジェンはティールとヒツギたちの衝突を知っているため、特にそれを聞いて不機嫌になることはなかった。
「ふっふっふ、そうだね。三十一階層からは、気を引き締めていても危ない時は本当に危ないからね」
「モンスターの強さも上がりますし、割と平気でBランクモンスターも出現しますからね」
エルダートレントに上位種のオーガ、サラマンダーに魔の風精霊シルヴィーナにアドバースコング。
他にも出現するBランクモンスターは存在し、対策を取ろうにもその数が多く、結果として武器やマジックアイテム、戦法に頼るよりも各々の個人戦闘力を上げる方がよっぽど安全性が増す。
「ヒツギなら……いや、無事にソロで討伐ってのは難しいか」
「そうだね。勝算はあると思うけど、ティール君たちの様になるべく死のリスクが低い状態で戦うには、まだまだ足りないね……僕としては、ティール君があの子たちに稽古でも付けてくれると嬉しいんだけどね」
「嫌ですよ。というか、ヒツギはともかく他の連中たちは俺から教わるなんて嫌でしょう……って言うか、そこら辺に関しては俺のことを過大評価してるかと」
強い。
戦闘力に関しては同世代の中に並ぶ者はおらず、冒険者全体で見ても自分が強いことはティール自身も自覚している。
だが、それでも探索力や指導力に関しては、まだまだ未熟。
それがティールの自己評価であり、そもそもティールの年齢を考えれば、それが当然であった。
「そうかい?」
「そうですよ。俺はまだ二十歳にもなってないんですよ」
「ティール君ぐらいの存在になると、年齢は関係無いと思うけどね……まぁ、本当のところは、ティール君ほどの年齢であれだけの戦闘力を持っている。だからこそ、あの子たちに指導をしてほしいなと思うところはある」
「つまり、俺という嫌っている人間から教えられることで、あいつらに発破をかけようとしてるってことですか?」
その言葉を聞いて、ジェンは満足気な笑みを浮かべた。
(やっぱり、この子は思考力が普通じゃない。直ぐに僕たち先輩、上司の立場になって物事を考えられる……本人は否定するだろうけど、リーダーとしての才もありそうだね)
ジェンは、完全にティールを紫獅の誓いに勧誘することは無理だと諦めている。
ただ、この先他のクラン……貴族や騎士団がティールを欲したとしても、その思いを「本人達が興味ないって言ってるのに勧誘するなんて馬鹿だね」と簡単に否定は出来ない。
ティールという人間には、それだけの価値がある。
「負の感情が、人を奮い立たせることもあるからね」
「なるほど………………そういう考え方というか、成長の方向もあるんですね」
「ティール君は、あまりそういう感覚には身に覚えがない感じかな」
「です、ね。基本的に師と呼べる人たちに指導してもらう時以外は、一人で訓練したり狩りをしてる時が殆どだったので…………あっ」
「ん?」
「いや、まぁ……そう、ですね…………若干、身に覚えが、ありますね」
「へぇ~~~~~~。ティール君でも、そういう感覚を体験したことがあるんだね」
気を遣って、わざわざそれっぽい経験があるフリをした……様には見えず、ジェンはその事実にやや驚いた。
(元々強くなろうと思った目的って、ミレットがレントのことに好意を寄せてるって気付いて、強くなればモテるって思ったからだもんな)
今思い返すと、なんとも浅はかな発想だと思ってしまう。
ただ、当時のティールはまだ五歳にもなっておらず、そんな極端な考えを持ってしまうのも無理はなかった。
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