上 下
689 / 693

浅はかな考え

しおりを挟む
「ふふ、この話を聞けば、うちの若い者たちも早く下に目指そうと熱くなりそうだね」

「ヒツギたちですか? …………焦ったら死ぬと思うので、今はまだ止めておいた方が良いと思います」

ジェンの後輩たちに対して非常に失礼な物言いではあるが、ジェンはティールとヒツギたちの衝突を知っているため、特にそれを聞いて不機嫌になることはなかった。

「ふっふっふ、そうだね。三十一階層からは、気を引き締めていても危ない時は本当に危ないからね」

「モンスターの強さも上がりますし、割と平気でBランクモンスターも出現しますからね」

エルダートレントに上位種のオーガ、サラマンダーに魔の風精霊シルヴィーナにアドバースコング。
他にも出現するBランクモンスターは存在し、対策を取ろうにもその数が多く、結果として武器やマジックアイテム、戦法に頼るよりも各々の個人戦闘力を上げる方がよっぽど安全性が増す。

「ヒツギなら……いや、無事にソロで討伐ってのは難しいか」

「そうだね。勝算はあると思うけど、ティール君たちの様になるべく死のリスクが低い状態で戦うには、まだまだ足りないね……僕としては、ティール君があの子たちに稽古でも付けてくれると嬉しいんだけどね」

「嫌ですよ。というか、ヒツギはともかく他の連中たちは俺から教わるなんて嫌でしょう……って言うか、そこら辺に関しては俺のことを過大評価してるかと」

強い。
戦闘力に関しては同世代の中に並ぶ者はおらず、冒険者全体で見ても自分が強いことはティール自身も自覚している。

だが、それでも探索力や指導力に関しては、まだまだ未熟。
それがティールの自己評価であり、そもそもティールの年齢を考えれば、それが当然であった。

「そうかい?」

「そうですよ。俺はまだ二十歳にもなってないんですよ」

「ティール君ぐらいの存在になると、年齢は関係無いと思うけどね……まぁ、本当のところは、ティール君ほどの年齢であれだけの戦闘力を持っている。だからこそ、あの子たちに指導をしてほしいなと思うところはある」

「つまり、俺という嫌っている人間から教えられることで、あいつらに発破をかけようとしてるってことですか?」

その言葉を聞いて、ジェンは満足気な笑みを浮かべた。

(やっぱり、この子は思考力が普通じゃない。直ぐに僕たち先輩、上司の立場になって物事を考えられる……本人は否定するだろうけど、リーダーとしての才もありそうだね)

ジェンは、完全にティールを紫獅の誓いに勧誘することは無理だと諦めている。

ただ、この先他のクラン……貴族や騎士団がティールを欲したとしても、その思いを「本人達が興味ないって言ってるのに勧誘するなんて馬鹿だね」と簡単に否定は出来ない。

ティールという人間には、それだけの価値がある。

「負の感情が、人を奮い立たせることもあるからね」

「なるほど………………そういう考え方というか、成長の方向もあるんですね」

「ティール君は、あまりそういう感覚には身に覚えがない感じかな」

「です、ね。基本的に師と呼べる人たちに指導してもらう時以外は、一人で訓練したり狩りをしてる時が殆どだったので…………あっ」

「ん?」

「いや、まぁ……そう、ですね…………若干、身に覚えが、ありますね」

「へぇ~~~~~~。ティール君でも、そういう感覚を体験したことがあるんだね」

気を遣って、わざわざそれっぽい経験があるフリをした……様には見えず、ジェンはその事実にやや驚いた。

(元々強くなろうと思った目的って、ミレットがレントのことに好意を寄せてるって気付いて、強くなればモテるって思ったからだもんな)

今思い返すと、なんとも浅はかな発想だと思ってしまう。
ただ、当時のティールはまだ五歳にもなっておらず、そんな極端な考えを持ってしまうのも無理はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...